賞金王がまた勝った。国内開幕戦に続く今季2勝目もまた、プレーオフを制した。今年57回目は歴代覇者に、「青木さんやジャンボさんにセベ・バレステロス」。錚々たる顔ぶれに加えて「韓国には、こんな長いトーナメントもありませんので」。日本で最古のスポンサートーナメントは、大会の格式と歴史と伝統にも惚れ込んだ。念願のツアー通算12勝目となるはずだった。今年はＪＧＴＯ会長として、表彰式に列席した青木功には「本当に強いな！」と、この上ない賞賛にも曖昧に頷く。

鬼は素直に喜べなかった。「勝っても、あまり良い気分ではなかった」。むしろ、鬼は「苦しかった」と言った。「大ちゃんは、本当に良い人なので」。サドンデスの1ホール目に退けた片岡大育（かたおかだいすけ）。「大ちゃんを嫌いな選手はいないと思う。僕も大ちゃんが好きなので」。勝って、鬼は複雑だった。

「今日は大ちゃんの日だと思った」。片岡はバンカーから直接入れた9番に続く、この日2度目のチップインバーディで、さすがの鬼も負けたと思った。2打目を奥のラフに落とした片岡の15番。左足下がりのライは「あれは絶対にボギーだと思った」。鬼さえ高をくくった難易度高のアプローチも「勝つ選手は、ああいうのが入るもの」。今回ばかりは、片岡の勝ちだと疑わなかった。

自分は奥のカラーから、どうにかパーでしのいで「本当に上手いね」と、15番のグリーンサイドで心の底から片岡を褒めた。次の16番でも連続バーディを奪われた。2打差をつけられ「負けても今日は、いい人と回れて楽しかったと思える」と、敗れて清々しい最終ホールを早々と想像したくらいだ。

「自分は自分のプレーを頑張る」と、せめて気を引き締め直した。その矢先。17番のパー3で片岡は、あわや左の池のティョットでダブルボギーに沈むのだ。

予選ラウンド2日も一緒に回って、片岡が舌を巻いたパッティング。近藤とのプレーオフ3ホールを制した国内開幕戦では抱えていたショットの不振も、庚泰 (キョンテ)は完全に払拭して今週を迎えた。
「ドローにフェード。高い球に低い球」。普段から、打ち分けて攻める鬼には、2日目の大風も追い風だった。「風のゴルフが僕は好き。そういうときこそ、スコアを伸ばせる」。悪条件も味方につけた。

タイスコアで迎えた18番は、今度は鬼が見せつける番だった。奥のラフからみごとな寄せ。もつれ込んだサドンデスの18番もまた、奥のラフから「前よりもっと、難しいライだった」と、さすがに2メートルが残ったが、「僕が少しだけ遠かった。僕が、先にパーパットを決められたことも、運が良かった」。1.5メートルを残していた片岡のボギーを誘った。一度は完全に片岡に向いた流れを、最後に一気に引き寄せた。

鬼には片岡の気持ちが分かる。「本人が一番つらいと思う」。鬼にも経験がある。「2009年には2位が6回」。プレーオフに敗れたこともある。逆転Ｖを食らったことも。そのたびに涙をのんできた。敗者の痛みが分かるからこそあえて言う。

「悪いことは、忘れたほうがいいとよく言われる。だけど、悪いことを忘れちゃダメと僕は思う」。今年、庚泰 (キョンテ)のバッグを担ぐ島中大輔さんも言っている。「キョンテは自分の弱さもすべて受け入れ戦うから強い」。
毎日、ラウンド後の反省と分析を欠かさない。「あのとき、なんであんな球を打ったのか。どうしてこういう攻め方をしてしまったか」。つらくても逃げないで、とことん考え、次につなげる。
「それが大事と僕は思う」と、静かに説いた。
「大ちゃんはとても若く見えるが、僕と2つしか違わない。長くツアーを戦えば、誰でも経験することだと思います」。
鬼もそうして強くなった。

このあと、ツアーは2週間の空き週を経て、「次は、大ちゃんはディフェンディングですよね？」。次は、片岡の連覇がかかる関西オープン。「これからも、頑張って欲しいです」。日本ツアーは本格参戦から10年目の12勝目に、勝って仲間を思いやった。

• 金 庚泰
• 青木 功