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市原弘大はショップ愛と、チャリティへの思いを胸に
煩雑さが増すはずのラウンドも、市原はどこか楽しげだった。
スタート前に、どこかから細いロープを持ってきて、縄目を割いて細くした。先っぽを、歯ブラシの持ち手の穴にねじ込む。
元々つなげていた細いチェーンでは、クラブヘッドの溝を自分で掃除するには短くて不便。
「これで、やりやすくなった」。
いつものスマイルを浮かべて、雨のコースに出ていった。
感染予防のために、今回のエキシビション大会ではキャディをつけずに行われることになった。
「日頃、キャディ任せの人ほど今回は、本当に不便を感じてしまうでしょうね。でも僕は、セルフプレーは慣れているので」。
かつて欧州ツアーのQT受験の際には練習ラウンドも入れて6日間で、手引きカートを引いたことも。
若いころから海外での経験豊富は「何度でも担ぎの試合をやったこともある」と、この日も手際よく積み重ねたバーディは5つ。10番ではイーグルもあった。
久々のブランクも見せないボギーなしの63で、首位と1差の2位タイにつけた。
全国に500以上のショップを展開する主催のゴルフパートナー社の”お得意さん”だ。
いつもいく、地元・千葉県八千代市にある練習場「明治ゴルフセンター」が、ショップ併設。
「そこのゴルフパートナーさんでもよく買い物させてもらいます。鉛や小物、こないだはパターカバーを買いました。可愛いのがあったので」。
中古のクラブもいいのがあれば、即断即決。
迷わずポケットマネーをはたく。
まさに、よきゴルフのパートナー。
今朝、コースに来た際に、「あれ」っと気づいた。
この日、選んだ黄緑色のポロシャツは、スタッフさんが着ているのとそっくりだった。
偶然にもショップ愛を体現したようで、なんだか嬉しかった。
「そこから、いい流れが来ましたね」。
男子ゴルフの中止が立て続く中でのご決断。
「やはり僕らはプレーをしてなんぼ。2日間競技でも、大変なこの時期に、試合をやっていただいて感謝、感謝で一杯。少しでも、主催者さんの思いに答えられるように頑張りたい」。
日頃の感謝も含めて38歳の気合が入る。
新型コロナウィルスの感染が拡大した時、医療従事者の方々への支援をいちはやく申し出たのも市原だった。
そして今はコロナ禍の中で、九州地方で記録的な豪雨がやまない。
全身、善意で出来たような男は「今は雨のことが本当に気になって。僕らが頑張って、元気づけると言えるような簡単な事態でもなく本当に、どうすればいいのか」。
久々の実戦でもそのことで頭が一杯。
「地方で大会を開いて、それをそのままチャリティするとか…。災害があまりにも多すぎて」。
どんなに支援を申し出たところで、まだまだ足りない気がしてしまう。
「今はとにかく自分ができることをやって。また何か、お役に立てればいいなと思います。そのためにも、まずはしっかり稼ぐこと」。
無観客のセルフプレーにゆるぎない信念がにじむ。