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落胆から一転。木下稜介の激動の1日
だが、大会を主催するR&Aが、すでに出場資格を得ている選手は2021年度の開催でも出場できる旨を追加発表したのは同日夜。
部屋でひとり、思わずガッツポーズを握ってしまった。
「よっしゃ、ラッキー…!」と、大きな独り言も出た。
20代のうちに、メジャーに出ることが夢だった。当初の予定どおり開催されていれば、ちょうど初日に当たる7月16日に29歳の誕生日も祝えるはずだった。
すでにおさえてあった飛行機も、キャンセル費が発生してしまうが来年への出場権の持ち越し決定は、そんな出費も吹き飛んでしまうほど。
むしろ、だいぶ早い誕生日プレゼントをもらった気持ちだ。
今オフは、全英オープンに照準を合わせてトレーニングやスイング改造に着手。中止の発表前日の6日も”3密”を避けて、兵庫・三宮(さんのみや)の公園の片隅で、早川怜トレーナーの鬼の特訓を受けたばかりで、「あまりのきつさに久しぶりに吐きましたよ」。
待望のメジャーデビューは1年伸びたが「初メジャーに向けて、さらなるレベルアップの時間をもらえたと前向きにとらえて頑張ります」と、朝の消沈から一転、再び希望の光が差し出した。
この日は、政府の緊急事態宣言も発令された。
木下の地元・奈良県は、対象地域には入っていないが今後は周辺のゴルフ場でも、どういう措置が取られるか。
「僕らプロはゴルフが仕事なので…。このまままったく練習しないわけにもいかない。だけど今までのように練習を続けられるのか。そこはとても不安ですが、とにかく今は耐えてできる範囲で備えていくしかない」。
つい2週前には、関西・中部に9つのゴルフ場を抱える信和ゴルフグループとコース使用契約を結んだばかりだ。
「先月、たまたま社長さんとお会いしたときに、男子ゴルフも中止が続く事態を心配してうちで練習すれば、と声をかけてくださって…。本当に、ありがたいことです」。
こんな逆境でも救いの手を伸ばしてくださる人もいてくれる。
こんな時だからこそ、親切が心に沁みる。