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賞金王の涙の真相
まさか。
勝っても、負けても、嬉しい時も、悔しい時でもいつでも淡々として見える。あの今平が?
今年のラストゲームで今季3勝目の寸前までいった。単独首位で迎えた「ゴルフ日本シリーズJTカップ」の最終ホールで、痛恨のダブルボギー。
石川とケネディのプレーオフにも加われずに有終の美は飾れなかった。
その悔し涙か。または、史上5人目となる2年連続賞金王の嬉し涙か。いずれにせよすぐには信じがたい。
現場は、難関パー3の18番グリーン右サイドの林の中で行われていたテレビ会見の最中。
狭いエリアに人々が密集していて、前後の声は聞こえにくかったが急に「すいません…」と、口を動かした今平は、確かに手でこぼれ落ちた涙をぬぐった。
その様子を遠巻きに見ていた周囲がざわついた。
婚約者の菜々恵さんの証言が拍車をかけた。
今年もシーズン最終戦までもつれた賞金レースで、フィアンセにもいつも通りに見えていた今平が、「QTを戦っているみたい」と、言ってきたという。
QTとは、来季の出場権を持たない選手が年末に臨む薄氷のツアー予選会だ。
「そんなに緊張しているなんて、気づきませんでした」と、菜々恵さんも驚いていた。
すっかり見る目を変えて、涙の理由を今にも本人に問う直前に、取材をしていたテレビクルーから真相が明かされた。
「あれは、コンタクトレンズがズレたからですよ」。
嗚呼…、周吾の肩すかし。
今季もほぼ全戦を支えた柏木キャディや渡辺トレーナーら、もっとも近しい人たちにはまた違うのだろうが、2年目の今季も淡々と、頂点までのぼったように見える。
めったに出さない感情、ほとんど見せない本音、余計なことは、喋らないのも昨年どおりだった。
2年続けて頂点に立ち続けるからには本人にはそれなりの葛藤や苛立ちもあろうが弱音や愚痴を、聞いたことはない。
強靭な精神力の下にそれらすべてを覆い隠している。
覆い隠している…という意識すら、本人にはないかもしれない。
2年目の今季、目新しい取り組みのひとつとしては、”エゴサーチ”を始めたことか。心無い批判が並ぶことも多いSNS。本人も、それなりに評判を気にしてある日、渡辺トレーナーに、「こんなことが書いてありました」と、書き込みを見せてきたことがあったという。
「気にしているのかな、と思いましたけど。いざコースに出ると、なかったかのようにプレーに集中していた。嫌なことがあってもすぐ忘れちゃうらしいです。気持ちが強いんですね」(渡辺トレーナー)。
周囲の雑音に、邪魔されることもない。
コースで気持ちを波立てることがほとんどなく、いつでも一定。
それが苦も無くできる。
スポーツ選手としてどれほど長けた能力か。
2年目に、改めて見せつけた。
無類の安定感の源である。
今季は「ケガをしない体作り」をテーマに毎週2の鍛錬で、さらに磨きがかかった。故障知らずの強靭さで、終盤にいけばいくほど高いレベルをキープし、ほぼ毎試合でV争いを繰り返した。
それでいながら、「もっと飛距離を伸ばしたい」などと、絶好調期も構わず突如、スイングをガラリと変えてきたりする。海外で仕入れてきたスタイルを、さらりとやってみせたりする。
「器用ではない僕が…」と、語ったのは賞金王と最優秀選手賞、メルセデス・ベンツトータルポイントランキング賞とパーキープ率賞の4冠で表彰を受けた12月の部門別表彰時だ。
人づきあいや、こういったスピーチについての自己評価だったようだが、ことゴルフに関しては、比類なき器用さと大胆さで「賞金王がかかっていた怖さというよりは来年、再来年を見据えて常に取り組んできました」と、言った瞬間、2年連続賞金王の矜持がわずかに覗いた。
今季のメジャー最終戦「全英オープン」直後に見つけた「今年、メジャーすべてで予選落ちをしたのは日本の今平だけ」との海外のネットニュースは、さすがに冷静沈着な男に火をつけたようだ。
今季最終発表の世界ランキングは31位。21位の松山英樹にも迫る勢いで、日本勢の2番手につけて2年連続2度目のメジャーフル参戦も、実現する見込み。
「来年は、まずはマスターズ(4月9日ー12日、米ジョージア州オーガスタナショナルGC)でよい滑り出しをして、メジャー4試合でぜんぶ予選を通りたい」と、今から静かに心を燃やす。
そして2020は東京五輪。
ゴルフ会場は、埼玉県の霞ヶ関カンツリー倶楽部だ。今平の地元開催。「ぜひ出場したい。国内では年間3勝、3年連続賞金王も目指して頑張っていく」。
この選手はどこまでのぼり詰めれば、本気の涙を流すだろう?
※最優秀選手賞を獲得した今平には東建コーポレーション株式会社 東建多度カントリー株式会社の安江哲也・取締役総支配人様より賞金100万円と(=写真2番目)副賞として、全日本空輸株式会社の江島まゆみ・マーケティング室 宣伝部 部長様より「ANAアメリカ路線 ビジネスクラス ペア往復券」が贈られました(=写真3番目)。
また、2年連続賞金王には森ビル株式会社の多田野敬・グループ執行役員様より賞金100万円と(=同4番目)副賞として、バロン・フィリップ・ド・ロスシルド、オリエントのアニュレ・アリス日本ビジネス・デベロプメント・マネジャー様より「ムートン・カデ・レセルヴ・メドック1ケース」が贈られました(=同5番目)。
そして、部門別ランキングの全9部門の順位をポイント化し、その合計により順位を決定する「メルセデス・ベンツトータルポイントランキング賞」にはメルセデス・ベンツ株式会社の上野金太郎・代表取締役社長兼CEO様より賞金100万円と、副賞として「メルセデス・ベンツ S 450 Exclusive Sports Limited」が贈られました。
改めまして、スポンサーのみなさまには、今年もたくさんのご協賛をいただき厚く御礼申し上げます。
また、12月9日に行われた授賞式の模様は12月30日(月)の11時より、CS放送の「スカイA」で放送されます。どうぞお楽しみに……!!