この6月に、世界的名門大学「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)」の経済学部を顕著な成績で卒業。
「英語もしゃべれて、いい大学も出れたんだから。金融なんかどうだ?」。
本音は手堅く就職を勧めてやりたかった一番は、息子の体への心配だ。
10歳から本格的にクラブを持たせた。16歳で「ウェストジュニア選手権」に勝つなど腕を上げたが、大学ゴルフ部をトップで卒業してすぐ米ツアーで…という当初の人生設計が崩れたのは入学1年時だ。
三角繊維軟骨複合体(TFCC)損傷で、左手首の手術後も腰や右腕痛など、4年間はほぼ度重なるケガとの戦いだった。
「大学で上手くなると期待して行ったんですが、逆にちょっと下手になって出てきちゃった」とは奨王・談だ。
米3勝、日本で10勝を重ねた父・茂樹自身も「19年やったが、自分もケガで降りた」という苦しいプロ経験から、「息子が同じ思いをしたらどうなのかな…」。
自分のように、辛い思いはさせたくない。
親心が先に立つのは当然である。
だが、最後は息子の気持ちを尊重した。
「アプローチはちっちゃいころから僕が教えた」という父譲りの小技と、「日本のコースは全部短い」と、言い切れる豪打は父の目から見ても十分通用する。
あとは、ケガの完治と気持ちだけ。
「今は、女子もそうだけど、早いうちに華々しく咲いて、早く散るというのが回りにたくさんいるから。焦ると思うが長期にわたってこの現場にいられることが幸せ。4.5年くらいかけて、ポジションが決まってくるのがいいんじゃないか。目の前の結果をすぐ出そうと思うな。焦るな」と言い聞かせ、まずは日本ツアーでのQT受験を条件に送り出すことにした。
10代からケガに泣かされ続けてなお、「これまでずっとゴルフをしてきたので諦めきれなかった。プロとして、一度は頑張ってみたかった。何もしないまま終わっちゃうのは悔しかった」と、話す息子・奨王。
「ゴルフができなかった時間が長かったので。いまはゴルフができるだけで幸せ。なんとか試合に出られる状況までもってこられて良かった」と、噛みしめる。
「父がPGAで3勝してるので、同じ土俵に立てるように頑張りたい」と夢を抱いて一歩を踏み出す。
息子の新たな出発の時。
初日は、11時15分の10番ティからコースに出るが、父・茂樹は「嫌だよ、見たくない。速報で十分だよ」と、駄々をこねるみたいに、「出だしのティショットだけ見たら、僕は(クラブハウスに)帰ります」。
見たいけど、見てやりたいけど、見届けてやれそうにない…。
パパ心は複雑なのだ。