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髙橋竜彦、母校へ帰る
本人はすっかり忘れていたが、そこにははっきりとこう書かれていた。
「僕はゴルフの選手になりたい 高橋竜彦」。
特に「ゴルフ」の部分だけが何度も鉛筆でなぞられて、そこだけくっきりと太くなっていた。
思わずニヤけながら、その字を見つめて独り言。
「へえ・・・俺、こんなこと書いたんだ」。
おそらく、当時は漠然とした思いだったに違いない。
しかしその20年後、最高の形で夢を実現させた。
昨年7月のUBSゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズでツアー通算2勝目。
5年シードを得たメジャーチャンピオンはこれを機に、このほど母校にスナッグゴルフのコーチングセットを贈った。
3月9日に、同校の体育館で寄贈式。そのあと4時限目の総合学習で、5年生の3クラス104人を対象に人生初の“教鞭”を取った髙橋が、後輩たちに語ろうと決めていたひとつが、まさにそのことだった。
授業の途中で、髙橋からみんなに配ったプリントのタイトルは『夢の年表』。
A4用紙に4つの質問が書いてある。
「将来の夢は?」
「15歳の自分は?」
「20歳の自分は?」
「夢の現実のために何をしたらよいか?」
夢を持ち続けること。そのために、明確な目標を持って努力を続けること。けして諦めないこと。そうすれば、きっと夢は叶うこと。
子供たちにもぜひ分かってもらいたいと用意していたのだが思いがけず、当時の自分の文集が残っていたことで説得力が増した。
授業にはその文集も持参して、みんなの前で“テキスト”がわりに開いて見せるとにわかに教室がどよめいた。
「見せて見せて」とせがむ子。
わざわざ立ち上がって、覗き込む子もいた。
夢を実現するための“お手本”が、まさに目の前にいる。
子供たちの視線が“先輩”に釘付けになった。
小学生のとき、プロゴルファーになるという夢を描いた髙橋は、高校の日本ジュニアで優勝し、日大時代に学生日本一に輝いた。
そしてプロテストで一発合格。
しかし、そのあと稼げない時代が長く続き、一度は「やめてしまおうか」と、思い悩んだ時期もあった。
それでも諦めないでやってこられたのは、「やっぱりゴルフが大好きだ」という熱い思い。
何でも良い。子供たちにもそれほど打ち込める何かを見つけて欲しかった。
今回、このスナッグゴルフコーチングセットの寄贈がそのきっかけになれば、と考えた。
前夜、妻・葉月さんと徹夜で作った“台本”をもとに髙橋は、心をこめて子供たちに語りかけた。