最後に努力が報われた。41歳が２０１０年のツアー最終戦で頂点に立った。ホールアウトから１時間以上たっても「体の震えが止まらない」。最終日は、それほどの激闘を制した。

相手はやはり、40代の谷口徹。この日61の猛チャージで牙を剥く。シーズン序盤の賞金レースを共に引っ張ったベテラン２人が技と気力を振り絞り、今年最後の一騎打ち。

先に、最終組からふたつ前の組の谷口が、17番でイーグルを奪った。「谷口さんが来るのは想定外だった」と、藤田。２打のリードを許して、すかさずプランを立て直した。「上がり３つで２つ伸ばせばチャンスがある」と、16番は４メートルのバーディで応戦。
そして17番で、入れ返す。残り255ヤードは、右ラフからの第２打を、スプーンでピン６メートルを捉え、イーグルトライはど真ん中からねじ込んで、たちまち再逆転してみせた。

再び１打リードで迎えた最難関の18番パー３。右バンカーから寄せた奧60センチには、「人生で一番震えた」という。「勝つか負けるか」のパーパット。「距離を合わして打てば負ける」。ラインを殺して強気で打った。「入らなければ、グリーンの外まで行っていた」。左の縁からコロン、と沈んだ。最後は１打差で振り切った。

「自分は飛ぶわけでもない。ショットにもキレがない。今日も最終組の中で、一番ヘロヘロのスイング。見た目もへろへろですし」と、どこまでも自虐的な男は、しかしさすがの劇的Ｖに「今日は主役を演じることが出来たのではないかなと思います」と、珍しく自分を褒めた。

今大会２勝を誇る弟弟子が言っていた。「宮本が“ここで勝つのは最高だ”と」。うそではなかった。「年の最後の優勝は、来週もまた頑張ります、と言う必要もない。嬉しいなあ」とのセリフに実感がこもった。

こう見えて、根っからの九州男児は「僕にはゴルフがすべて。家族とどちらかと言われたら、ゴルフを取る。現役でいる限り、そこは曲げるつもりもございません」というほどの亭主関白ぶりだ。理想のスイングを追い求め、全精力を注ぎ込む。あまりの完璧主義に、時に周囲を困らせる。

あるシーズンオフのこと。妻の優合子さんと「前厄の厄払いに行こう」と約束していた。しかし、朝から練習場に出掛けてしまい、結局夜まで帰ってこない。さすがに怒った妻に、夫はもっともらしく言い訳した。
「厄払いより、ボールを真っ直ぐ行かせるほうが、先だろう」。

「パパはどうしてちっとも家にいてくれないんだろう」と、真剣にお母さんに相談を持ちかけた長男の大稀（ひろき）君。内心「悪い」とは思いながらも、父の足は、たまの休みも自然と練習場に向いた。

夏を過ぎて陥った深刻なスランプ。スイングの試行錯誤は、師匠をも巻き込んで、長く続いた。「結果で報いたい」。その芹澤信雄が、最終日に応援に駆けつけた10月の日本オープンは、３位に終わった今年５月の日本プロ、また６月は２位の日本ゴルフツアー選手権に続いてまたしても２位に終わり、悲願の「メジャー獲り」に失敗。

「弟子のためにわざわざ会場まで来てくれる師匠なんかいないのに」。感謝の気持ちが強い分だけ、情けなさが募った。いっそう、練習に打ち込んだ。ときに胃が痛くなるほど、悩み続けた。

ウィニングパットがカップに沈んだ瞬間に、いっせいに泣き崩れたのはチャンピオンではなくむしろ、周囲の人たちだった。
41歳の、血のにじむような努力と汗。クラブメーカーのスタッフやトレーナーに家族。間近にいる人たちは、なおさら痛いほどに知っている。いつも心から支えてくれる仲間たち。誰もがむせび泣く中で芹澤が、大声で叫んでいた。

「偉いぞ、藤田!!」。

前夜も電話で「チャンスをつかむには、どうしたらいいか」と、相談を持ちかけたばかりだった。
「前を見て、上を見て、最後まで自分を信じて行け」との言葉を励みに、今年最後の頂点を目指した。今度こそ、師匠の前で夢中で掴んだ節目のツアー通算10勝目は、初めての日本タイトル。やっと日頃の恩に報いた。とめどない感謝の気持ちが涙とともに、溢れ出た。

42歳の谷口との死闘を振り切り、今年最後の頂上決戦で最強選手の座についたのは、昨年の丸山茂樹に続く40代のチャンピオン。「若いとか、年だとか、世代を考えながらゴルフをするというのは自分の中にない。気持ちは20代のつもりだし」と、藤田は言う。

それでも世の40代たちは自分と同じように、人生に迷い、体力の限界を感じ、若手の台頭にひそかに怯えながら、それでもみんな一生懸命に生きている。そう感じさせられることが、近ごろとみに増えた。「そんな中で同じ世代の人たちが、勇気をもらったとか、元気が出たとか言ってくれると、達成感がある。そんなときこそゴルファーとして、やっている意味がある」。
どんな結果を残しても、けっして満足することのなかった選手が、今季最後にようやく満たされた。

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