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アジアパシフィックオープンゴルフチャンピオンシップ パナソニックオープン 2013
片山晋呉はツアー通算27勝目までの秒読み段階に「優勝するより価値がある」【インタビュー動画】
誰も想像だにしないことを、平然とやってのけるのが過去5度の賞金王の真骨頂だ。「いや、僕だって大変でしたよ」と、言って上がってきた直後の表情は、確かに満面笑顔というわけではなく、それこそ毎ホールとも、細い針に糸を通す作業を続けてきたような、神経を尖らせきって回ってきたような、そんな雰囲気も漂わせていた。
今年の開催コースの茨木カンツリー倶楽部は、「今年いちばんのセッティング。挑戦意欲をかき立てられる」。そのときの調子の善し悪しが、くっきりと明暗を分けるコースは「ちょっとでも悪ければ、手も足も出ない」。ワングリーン化は2011年に完成したが、「この大会にむけて、改造した。数年をかけて、取り組んだことが伝わってくる」と、大会側の熱意にも打たれて、いっそう闘志を燃やした。
「この状況の中では1種類だけじゃなくて、いろんな球を打ってきた。スライス、フェード。低い球、高い球。だってそうじゃないと、今日の風には対応出来ない」と、高い技術力を駆使して一分の隙もないゴルフで他を圧倒した。
もっとも難易度の高い7番のパー4では190ヤードの2打目を7番アイアンで、1メートルにぴたりとつけた。2番目に難しい11番ではチップイン。246ヤードは“直ドラ”の2打目を奥のラフに打ち込んだが、30ヤードのアプローチは「完璧でしたね」。
先週の北海道では、女子プロの飯島茜さんが、教えを乞いに来るなど、近頃は第一人者として若手に指導をする機会もとみに増えて「僕は人を教えるのが好きだし、彼女や彼らが悩んでいることの、すべてを乗りきってきたから。相手の問いに対して120%で答えることが出来る」と自負する多彩な技を駆使して、ロケットスタートをした。
先週までの2試合で4位、2位と来て、「勝つのは時間の問題」と、もはやそのときを待つばかりの状態も本人は、さほど勝負にこだわる素振りも見せずに、「勝って復活、じゃないんです。僕にとってはこうして毎試合のように、この位置でやれていることのほうが大事で、そのことに、幸せを感じる。僕にとっては、優勝するより意味がある」。
約9年ぶりにコーチを新しくして、「技術的にも新しいことを吸収するようになったし、取り組み方が違う」と、やることなすこと、目に見えて成果が出はじめているいまは「ワクワクしている状態が続いている」。喜々としてコースと向き合う気持ちは、つい5年前にはなかったことだ。マスターズで4位に入った直後に「燃え尽き症候群」にかかった2009年。「あのときは、コースに来るのも嫌だったので」。頂点に立った者だけが味わう絶望の淵で、もがき続けてようやくトンネルの出口に立つ今は「復活、じゃない。“新生”だと思っている」。
ゴルフも、気持ちも一新して戻ってきた。新生シンゴは「こんな状況がこれからもずっと続くようにと、毎日を過ごしています」と、常勝時代の第二期も見えてきた。