Tournament article
中日クラウンズ 2013
片山晋呉が単独首位に
最終18番は、グリーンにどうにか乗った長い長いバーディトライ。「25歩はあったと思う」。距離にして、23メートルはあった。「そんな長いの今週は、まだやったことがなかった」。下手すれば、そこから3回はかかるかもしれないと思った。
それが、ど真ん中からカップに沈んで「自分で鳥肌立っちゃった」と、グリーンの片隅でおどけて両腕を、スリスリさすった。
崩れていく松山を横目に、和合で尻上がりにスコアを伸ばした。
自分にも経験がある。
大会2勝目の2006年大会だ。
スタートの連続バーディで、一気に2位と10打差ついた。
「自分もそうだったけどこのコースで前半に伸ばした人が、後半もスコアを伸ばしたのを、僕は見たことがない」。
それが和合の怖さ。
ひとつバランスを崩すと、地獄にハマる。
「絶対に、なめてかかってはいけない」。
この日は、前半の9ホールで松山に、7打差をつけられた。松山は、5番のパー4で、2打目を直接入れるイーグルを奪った。史上初となるルーキーの2週連続Vにむけて、このまま独り旅かと思われた。
しかし片山はただひとり、厳しい視線を向けていた。
「和合は、勢いだけでは手に負えない。彼はきっとこのままでは終われない。特に今年の和合は最強ですから」。
静かにそのときを待った。
自分は前半2つのボギーにも、じたばたするわけでもなく、「怒るでもなく、カリカリもなく、なんの喜怒哀楽もなく、落ち着いていた」。
松山がその前兆を見せた瞬間も、見逃さなかった。
14番で、左にOBを打った松山は、打ち直しの3打目も右隣のホールに打ち込んだ。さらに5打目はバンカー目玉。そこからうまく脱出して7メートルもの長いパットも沈めて、どうにかダブルボギーに踏みとどまったが、そのあとすぐに、片山も6メートルを入れ返した。
「彼も非常に上手く入れたと思うけど。あれは、きっと効くよね」。
勝負の駆け引き。躍動する体と心。その時点で、2打差に迫って心が躍る。
通算26勝の永久シード選手も2008年から勝ち星に恵まれず、こんな感覚も久しぶりだ。
優勝争いの醍醐味。「このために、ゴルフをやっているのだと思う。入れたり、入れ返されたり。そういうのをやっている自分が好きなんです」。
16番で、ついにひっくり返した。最後のバーディで、突き放した。
背筋がゾクゾクする瞬間。
やっと、ここまで戻って来られた。
2009年のマスターズで日本人としては最高位の4位に入ってからというもの、目標を見失ったまま長くさまよってきた。王者がようやく、表舞台に帰ってきた。
でも正直にいえば、5年ぶりの優勝などどうでもいい。
「勝つとか、負けるとか、そういうのをやっている時が楽しいから。そこに自分も加われて、幸せです」と、謙虚に言ったが、和合は過去14回の出場で予選落ちなし。また、今大会の最終日を最終組で迎えた際の勝率は100%という黄金のデータもある。