今年18回目の恒例行事も、そろそろ次の後継者を育てる時が来ているようだ。「このイベントも高齢化してきて。若い子たちに引き継いでいかないといけない」とはベテランの桑原克典。ここ数年来、感じていた切実な思いが、今年はいや増す事態が起きた。

ツアー通算48勝のレジェンドが今年、無念の欠場を決めた。2010年の交通事故で損傷した膝の状態が、思わしくない。大会に出られないということは、つまり毎年火曜日の恒例行事にも参加出来ないということであり、出場を断念した際に中嶋常幸は、何よりそのことが無念だったと周囲にも、もらしていたそうだ。

中嶋が、愛知県東郷町の小規模授産施設「たんぽぽ作業所」に通い始めたのは、1999年からである。和合の1番パー４で、アルバトロスを達成したのはその前年の38回大会だった。ティショットを直接カップに入れる快挙達成に、受け取った賞金の一部を同施設に寄贈したのをきっかけに、つながったご縁をずっと大切に温めてきたというのに、18年目にしてついに穴を開けることになってしまった。

毎年、施設訪問のたびに美味しいお寿司を振る舞ってくださる寿司職人の山内和義さん。3日前に、中嶋から「欠場」の電話報告をもらった。「僕の代わりに盛り上げてきて」と、言われて悲鳴を上げた。「とんでもない！　あなたの代わりになれる人間なんて、誰もいやしないよ」と、山内さんは答えたそうだ。日々、地道な就労訓練に励む施設の方々にとっても、1年で一番楽しみな一大イベントである。
言うまでもなく、施設でも中嶋の人気は絶大であり、その欠席が伝えられたときにはどよめきと悲鳴が上がったそうだ。「本人が一番だけど、寂しいよねえ･･･」と、山内さんも改めて肩を落とした。「中嶋プロは、練習を頑張りすぎて、足が痛くなっちゃったんだって」と、施設のみなさんに説明するのも心苦しい思いがしたものだが、それでも今年は常連の桑原に加えて、昨年覇者のＩ・Ｊ・ジャンと、特に24歳の堀川未来夢（ほりかわみくむ）の初参加は希望の光。

施設の方々に大歓声で迎えられた堀川は、みなさんの明るさに圧倒されて、「さっそく、僕がみなさんに元気づけられています。この施設訪問は今年で18回目だそうですが、僕らの力で20回、30回と続けていけたら」。

常連の鈴木亨も今年は試合に出られず、今年39歳になる星野英正は、あまり体調が思わしくない。また施設のほうでも、選手たちにもお馴染みのお顔が今年から別のグループホームに移られたり、誰にも止められない時代の流れを感じて、ちょっぴりほろ苦い今年の施設訪問も、若い堀川の屈託のない笑顔で一気にパッと華やいだ。
施設の方々から「ストレスの解消法は」と聞かれて「小学校から始めたゴルフが今も大好きで、やっていてストレスを感じたことがない」と、ハキハキと答えた堀川。

山内さんも、そんな若さに背中を押されて、このオフには大親友の中嶋とグアムで“ゴルフキャンプ”を張った成果をスナッグゴルフ対決で、発揮した。なぜか（?!）この日の初対面から、互いを「ライバル」と呼び合い、何かと張り合うジャンに競り勝ち「ディフェンディングチャンピオンより上手い！」と桑原に絶賛されれば、少しは中嶋の代わりにもなれた気分。

それなら山内さんの本職の「寿司で」と対抗心をむき出すジャン。常連の桑原にはすっかりお手の物だが、ジャンは寿司を握るのは初めてだ。山内さんの見よう見まねの慣れない手つきも「ジャンさん、上手いね、すじがいいよ」と山内さんに褒められて、どや顔の昨年覇者。

「ジャンプロが握ったお寿司を食べたい人〜！」と、いっせいに挙手が上がればますます嬉しい。そして、桑原にも聞いていたとおりに、山内さんが握ってくれたお寿司は、ほんとに美味しい。
2012年に続く、昨年の大会2勝目もまた、大好きな名古屋名物「ひつまぶし」でゲンを担いだが、勝負メシがまたひとつ増えた。「山内さんのお寿司が大好きです」と連覇に備えてお腹いっぱい頂いた。
今年は施設のみなさんと会えない代わりに、携帯電話をスピーカーにしてメッセージを届けた中嶋。「今年は行けなくて残念だけど、みんなの顔が目に浮かぶ･･･。来年は必ず会いに行きます！」。

通話口を通しても、その絶大の存在感。施設の方々を思う優しさが伝わってくる。もちろん、若い後継者を育てることは必須事項だが、それとは別に、山内さんも言ったとおりにトミー中嶋の代わりになれる選手なんていやしない。
「来年は絶対に会いに来てね！」。トミーの復帰をみんな首を長くして待っている。

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