Tournament article
フジサンケイクラシック 2016
韓国の趙珉珪(チョミンギュ)が5年ぶりの2勝目に涙
今朝もロッカーで、上下共にみごと揃いのケネディと、鏡のように顔をつきあわせて互いに、皮肉交じりに「ナイスチョイス!」。すでに宿の支払いを済ませ、この日はウェアの詰まったスーツケースもそばにある。かぶらないよう着替えることも出来る。
しかし「なぜ、僕が気を遣わなければいけない?」。あえて強気に押し通した。「こうなったら同じ服でどちらが勝つか。やってみよう」。
でも本当は、ずっとパーでくっついてくるケネディが怖かった。「途中から、宮本さんも怖かった」。追い上げてくる選手の影に、くじけそうになりながらも「自分に叫び続けた。“今日はコースとの戦いだ”」。
このフジサンケイクラシックは最初、欠場するつもり。「それくらいにずっと調子が悪かった」。ここはいったん休みを取って、韓国でコーチにスイングを見てもらおう。そんな予定を変更してやっぱり日本に戻ってきたのは、2つ兄のジェイックさんが「出ろよ」と背中を押してくれたから。
先週の韓国メジャーのKPGA選手権。久しぶりに兄にバッグを担いでもらって「勘が戻った気がした」という。「大丈夫。自信を持ってやってこい」。兄のアドバイスは本当だった。途中はボギーで崩れかけても、落ち着いて立て直せた。
ついに17番のダブルボギーでケネディが自滅した。3打差で迎えた18番でもケネディが2打目をクリークに入れて、もう心配ない。最後のボギーパットも冷静に、ガッツポーズの目には涙が浮かんでいた。
勝者が良く言うセリフは本当だった。
「優勝は神様がくれる」。
こんな嬉しい気持ちももう、忘れかけていた。
「2勝目とはいっても5年ぶり。初優勝みたいな気持ちです」。
今週、テレビ解説をつとめた丸山茂樹が「珉珪(ミンギュ)はすごくいい子」としきりに褒めたが周囲には、いつも笑顔で明るく見え
ても、勝てない5年は心が折れる寸前だった。
ショットもパットも不振を極めた一昨年は特につらかった。
仲間がするから練習する。仲間が出るから自分も試合に出るといった感じで「本当は、あのときゴルフをするのも嫌だった」。
日本では1勝を挙げても、韓国では未勝利だ。
「1勝は運があれば誰でも出来る。韓国では3勝しないとトッププロとは認められない。いまだ1勝しかない自分に限界を感じた」。
くじけそうな心。
寸前でどうにか持ち堪えたのは、両親への感謝の気持ちがあったから。
「ここまで育ててもらって、このままでは申し訳が立たない、と。両親の存在が原動力になりました」。
親の愛に再びこみ上げてきたものを、ごまかすためにわざと茶化した。「でも、マザコンじゃないですよ!!」。
1度目はまったく話せなかったが、このたび2度目の優勝インタビューは、ほとんど日本語でこなした。
最初は苦手だった納豆も、今やすっかり大好物だ。
寿司ネタで好きなのはマグロという花嫁募集の28歳。「今はまだ、ゴルフが恋人」と、澄まして言った。
2011年の関西オープンで、ツアー初優勝を飾った際には、韓国語で確かに言った。
「目標は米ツアー」。再び蒸し返されて、「僕、本当に言いました??」と、首をかしげる。
「初優勝が嬉しすぎて、おかしくなってたんでしょう」と、うそぶいた。
当時はまだ23歳。「勢いで、すべてが簡単に行くように思えた。どうかあれを、自分とは思わないで」と2勝目を機に、謙虚に前言撤回だ。
金庚泰 (キムキョンテ)のように、2度の賞金王でも獲れば話しは別だが「それもきちんと段階を踏み、日本で着実に事を成し遂げてから。米ツアーもそれから」。
5年で身の丈を知り、大人になった。
次は優勝の味を忘れぬうちに、まずは3勝目を飾ることが目標だ。