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日本オープンゴルフ選手権競技 2018
日本一曲げない男が挑むゴルファー日本一のタイトル
「今日は寝酒でもしますかね」と、24歳が冗談めかして笑った。
今週、初めて2オンさせたという距離の長い11番のパー4(492ヤード)で迎えたバーディチャンスに「心拍数が上がって、それまであれだけ暖かかった手が、キンキンに冷えていた」。
ゴルファー日本一がかかった大舞台で挑むツアー初Vだ。たとえ、まだ3日目でも精神面の動揺が、自分にもそうと分かるくらいに体に出ていた。
それでも、みじんも感じさせない落ち着き払ったゴルフをこの日は展開した。まだ若いが、11年にプロ転向を果たしてもう8年目。まだ頂点こそ届いていないが、経験は豊富である。
前日の、2日目に続いてこの日も「どんだけ池が好きなんだ」と、自分ツッコミをしたのは13番。2打目をまた池に入れたが、「焦りはなかった」。それよりも、注視したのはボールが赤線のラテラルウォーターハザードを通過したかどうかということ。それにより、元の位置に戻って打つのか、通過地点の2クラブの範囲内でドロップして打つかの大きな違いが出てくる。
確認スタッフの証言は曖昧だった。競技委員と打ち合わせて映像による確認を求める冷静さが稲森にはあった。
コースに点在するスコアボードも「がっつり」と目を凝らして自分の立ち位置を逐一確認。
特に、上位選手の各ホールの全スコアが載る速報版は「16番は、他にもボギーを打ってる人がいる、と。みんなも打つんだから、とホッとした」と自信の回復に役立てるしたたかさもあった。
15年から3年連続でフェアウェイキープ1位。2年目の16年は71.66%という脅威の安定感も、今週は「フェアウェイが広めだから」とこだわらず、「ホール全体を見て、右と左に分けてどっちに打つのがいいのか。行ってはいけないラフと、行ってもいいラフと。そこは許容範囲にして、バンカーに入れるのもあり」と、柔軟なマネジメントに徹する。
前日2日目は上がった時点ではトップタイも二十歳の桂川さんに奪われた首位獲りには「プロならみんなそうと思うが、アマチュアには負けたくない、と」。プライドをひらめかせても、貫く信念は「誰かにというより、ゴルフはコースとの戦い。だってゴルフ場は動かないのにスコアを落とすのは、自分がミスをしているからで、なんで俺は動かないものに負けてるんだ、と。そう考えたら馬鹿らしい」と独特の持論で、あくまで難コースと対峙する。
昨年、一昨年の今大会は7位。また、今年の日本プロは3位タイに敗れて「最後、5メートルくらいのバーディチャンスをフックと読んで、スライスした。攻めきれず、ショートさせて悔しさしかなかった」と、今も悔やむ。
「日本タイトルは、一番目指しているものだから」。
特に、歴史と伝統の今大会には今も記憶に残るVシーンがある。小田龍一が今野と石川とのプレーオフを制した09年。「同じ鹿児島の身近なプロがメジャーで勝った」。当時、稲森は中3だった。
「国体メンバーで、お祝いに行きましょうということになった」。
パーティ会場の祝福ムードに、大舞台へのあこがれが膨らんだ。
「日本オープンは、メジャーの中のメジャー」。
このたびのビッグチャンスを逃す手はない。
「目指すはここで初優勝。それ以外に何がある?」。
日本一曲げない男が、日本一のタイトルに向かって真っ直ぐに邁進する。