Tournament article

日本プロゴルフ選手権大会 2024

ゴルフも人柄もプロ日本一。杉浦悠太の理想と今後の目標は

杉浦悠太(すぎうら・ゆうた)がプロ転向後の初Vを、91回目の「日本プロ」で飾った。



大会9人目(10例目)の完全優勝で、大会5人目の初出場Vと、プロ12試合目の大会最速記録も更新した(※1,2,3)。

数々の偉業を達成するちょうど1週間前の1日・月曜日。


杉浦は、一期生として12歳から通っていた、地元愛知のゴルフアカデミーに突如現れ、現役塾生らを驚かせたそうだ。

さらにはジュニアたちと一緒にストレッチや坂道ダッシュで体を動かし、練習前にはみんなで順に読み上げるという、“アカデミーの十か条”まで共に唱和。


「“挨拶は大きな声で…”とか言うんですけど、悠太も立って一緒に声に出して読み始めて」と、入塾当初から杉浦を見ている奥雅次コーチ。

「みんな上手くなったり、プロになると、普通そこには参加しないですよね。その時間は別のところでストレッチをしたり…。でも悠太はちゃんと一緒に言ってる。純粋というか…昔から変わらない。いい子だし、礼儀正しいし、僕は注意をしたことがない」という奥コーチが、教え子の最終日の大健闘で一番うれしかったのが、2打差で入ってきた最後の18番だった。


第1打を左のバンカーあごに入れ、右ラフにミスショットをし、グリーン手前の花道から3打目を打つ場面で、ウェッジではなくパターの寄せを選択したのは今朝の奥コーチの助言がヒント。

会場の“富士可児(ふじかに)”での試合経験も豊富な奥コーチは、「あそこからウェッジでは寄らない」と、スタート前の練習グリーンで杉浦に断言していた。



「パターで打ってみぃ」という奥コーチに杉浦は、「やったことがないから…」と、躊躇していたそうだが「今週のおまえの距離感なら絶対入る」と、太鼓判を押されたとおりにパターの寄せワンボギーで逃げ切りV。

「コーチのおかげ」と、あとで杉浦も感謝していた。



2打差の首位から出た最終日は3日目までよかったパットが決まらず、ショットも乱れて数えきれないピンチもあったが、中でも一番の危機が、むしろ勝負の岐路に。


ティショットを左隣の18番のほうに落とした9番は、2打目も本ホールに戻れず、やっと林超えの3オン2パット。

10メートルのパーパットは入らなくても「いいボギー。上りのパットをしっかり打てた。気持ちの整理ができた」というナイスボギーで静かに立て直すと、12番では今度3メートルのチャンスを決め切り、かわした。



1打差には詰められたが、一度も並ばれず、逆転もされなかった。

最終日の最終組でぶつかった蟬川泰果(せみかわ・たいが)は、杉浦が日大3年時にアマで出た2022年の「日本オープン」で、6打差3位で敗れた相手。

「この人には勝てないな、というぐらいのすごいプレーを見せつけられた。そんな選手に競り勝てたのは良かった」と、5年シードのタイトル戦で、2年越しの雪辱は感慨深い。



最終日、ロープの外ではピンクのタオルや応援グッズで統一した蟬川の陣営と、青の小物で揃えた杉浦陣営との応援合戦みたいになった。

「とにかく一生懸命なのが彼のいいところ。応援したくなる。彼もそれに応えようとしてくれるので、また応援したくなるんです」とは、名古屋の会社から、総出で応援に来られたスポンサーさんだ。


「苦しい状況で、悠太なら行けるぞ、とか声をかけていただいて、一人じゃないなという気持ちになりました」と語った杉浦のVスピーチにもまた感激されていた。



学生時代にプロの試合に出たときに、プロが1Wで攻める中、杉浦は奥コーチに「3ウッドのローフェードでいいですか?」などと、聞いてきたそうだ。

「高校生くらいから、コントロールを重視してきて。ほんとテクニシャンだし、常に冷静だし、やることはベテラン選手」と、奥コーチ。

91回目の「日本プロ」で、人柄もゴルフもふさわしい22歳のプロチャンピオン誕生だ。


「表には出ないかもしれないですけど、テンぱってますし、緊張もしてますし、昨日の夕食時も今日のことを考えちゃうくらい。プロで早く1勝を、と言われ続けてプレッシャーもありました」と、本人はV会見で打ち明けたが、「全然わからない。焦らないし、怒らないし、彼は常にフラットですよ」とは、組んで2戦目に勝利をアシストした高田キャディだ。



一度定着したクラブをなかなか取り替えないのは、「調子が悪いのは、クラブのせいではなく、自分のせい」という信念があるから。
「自分の何が悪いのかを常に考えています」。


だから、無用に他人や物にあたることもない。

数々の記録を打ち立ててもやっぱり「記録よりも1勝できたことが嬉しいですし、ほっとしています」と語り、大会主催の公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)の広報チームの方から聞かれた理想のプロ像については「どこへいってもたくさんの方が応援してくださるような選手になりたいです」と、答えた。


いつも穏やかで、声高に何かを主張することもなく、今季の目標を語るときも、「賞金王を目指して頑張っています」などと、近況報告するみたいにさらっと言うので、うっかり聞き流してしまいそうになるが、今後の海外進出を目指す本人としては、そこにも並々ならぬ思いがあるらしい。

最新の賞金ランキング



<※1>1973年ツアー制度施行後の大会完全優勝者>
青木功(1973年)
ジャンボ尾崎(1974,96年)
中嶋常幸(1983年)
Dウィルソン(2001年)
伊澤利光(2007年)
池田勇太(2009年)
谷口徹(2012年)
平田憲聖(2023年)


<※2>1985年以降に大会初出場⇒初優勝
2021年 金成玹(キム・ソンヒョン)
2015年 アダム・ブランド
2009年 池田勇太
2001年 Dウィルソン


<※3>2009年大会の池田勇太の16試合目を更新(1985年以降の記録)

関連記事