「笑って」と、言えば言うほど笑わない。
「教えて」と聞けば聞くほど貝になる。
淡々としたVシーンが常だった。
「初優勝の時すら何も言わなかったのに」と、驚くのは長年連れ添う新岡キャディだ。
V直後に「泣きそうなんだけど」などと新岡さんに、岩田のほうから話しかけてきたのは通算6勝目にして初だったという。
記念撮影では自然な笑顔もこぼれた。
“ヒロシの異変”が初タイトルへの喜びを如実に語った。
V直後の公式の第一声では「疲れました」と、言った。
「若い子は気持ちよく飛ばすので。それでですね」と息を吐いたが、トップで並んで出た若い金谷や小木曽にも劣らず、最終日も若い子たちより何度も前にボールを飛ばした。
3歳も更新し、大会最年長Vを達成した。
でも、「じじいではない。むしろだんだん若くなっている」と、新岡キャディ。
長年、岩田を支えてきた金田トレーナーによると、毎火曜日は、ひどい筋肉痛で会場入りしてくるそうだ。
「それがだんだん馴染んでいって、試合が始まる頃にベストな状態になるようです」と、金田トレーナー。
V後に参加したボランティアさんの感謝パーティで、いま一番したいことを問われて「体に悪いものが食べたいです」というのも、試合中は脂っこいものや、ジャンクフードは一切取らないなど日ごろの努力が言わせている。
食生活に気を配り、サプリメントを吟味し、効果的な摂取法など日々研究を重ねている。
老け込まないヒントは、中学時代の恩師の言葉にもある。
「その先生が、40歳を超えて年を“とる”って、年を“取る”だから39歳だ、って言ったんです。なるほど、と思って。だからいま、僕は37歳です」。
どおりで、年々若返っていくわけである。
岩田には直接に言ってこないのだけど、山田マネージャーを介して「ベテランは宍戸では勝てない」と、言ってくるメンバーさんが地元仙台の練習コースにいたんだそうだ。
昨年大会の2位を契機にさすがに言われなくなったらしいが、以前は「何度もいうからずっと腹立って。明日記事で見て、びっくりすると思う」と、実は反骨心も人一倍だ。
正月に、谷口徹に「今年はメジャーで勝て」と言われていた約束を果たして5年シードを獲得したが、「谷口さんにもう1個言われたのが、シードを何年持っていても勝負は1年ずつ」という戒めの言葉。
日本タイトルを5回も獲り(ツアー通算は20勝)18年の日本プロでは50歳の最年長Vを達成した大先輩の言葉は重い。
「今日の優勝はリセットして、明日からまた努力していきたいです」と決意を述べた。
新岡キャディによると、今週初日の18番のボギーは左のバンカーでダフった結果。
普段ならミスに萎えて「もう帰る」と言い出す場面だ。
「でも、初日はそのあと練習して帰る、と。嘘だろ、って。そんなの見たことないし。気持ち悪っ」と内心、新岡さんはひどく驚いたそうだが、「今週は本人にやりたいことがあって、ミスの原因も分かっていたから修正することもできた。一発やって電池切れ、じゃなく。だからやれる、とショットも安定していた」と、14、17番のボギーで石川とのプレーオフにもつれても、隣のヒロシは気持ちも集中力も切れてなかった。
パーセーブで決着した18番グリーンでは握手だけで終わらず、ぎゅっと石川を抱きしめた。
そんな岩田を見るのも初めてかもしれない。
次週は、韓国共催「ハナ銀行インビテーショナル(Nam Chun Cheon CC)」。
キャディは普段は石川専属の佐藤さんがつとめてくれるが、プレーオフ直前に、「恨みっこなしで」と、約束してあるので「気まずくない」と岩田。
石川は次週、2年連続8度目の「全米オープン」に挑む。
同週に韓国で、2週連続Vならかっこいい。