Tournament article
三井住友VISA太平洋マスターズ 2002
「僕も頑張れば、出来るじゃん(笑)」
谷口の欠場で、「出場できる」との連絡が届いたのが、スタート時間の12分前。
それから、レジストレーション(出場登録)を済ませ、10番ティまで猛ダッシュ。
同伴競技者のアーロン・バデリー、横尾要への挨拶、グローブやボール、ティの用意…。
「そのうち、なんだか手まで震えてきて心臓もドキドキ。それも、さっき走った鼓動なのか、緊張のためなのかさえも分からなくなってきて…」と兼本は、そのときの様子を、苦笑いで振り返った。
欠場者が出たときの繰り上げ出場を狙って、練習日から会場に待機していた。
いつ出番がきても良いように、練習ラウンドをこなし、この日初日も、トップスタートの1時間前にはコースに到着。打撃、パッティング練習と、普段と同じルーティンをこなしてはいた。
だがそこで、前日から体調が思わしくなく、出場を取りやめるかもしれない、と伝え聞いていた谷口が、同じように球を打っていたため、(ああ、やっぱり谷口さんは大丈夫なんだな)とその時点で、なかば諦めていたから、急な“吉報”には、図らずも大いに動揺してしまったのだ。
そして迎えた“第1打”も、下見ラウンドでは、右サイドの木をよけてスプーンで軽めに打とうと攻略法はばっちり決めていたのに、すっかりテンパッていたために、
「なにがなんやらわからずに、やみくもに思い切りひっぱたいてしまいました…(苦笑)」。
一瞬、ヒヤリとして、ますます緊張は高まったが、運良く第2打地点のボールは木の下を抜け、打てる場所にあった。
「そこで少し落ち着いて。さらに、12番でも良いティショットが打てて、2連続バーディを取れたことで、ようやく震えが止まりましたよ(笑)」。
すっかり自分を取り戻したあとは、順調だった。
ピンチの、長いパーパットをしのげたのが何より大きかった。
「自分にしては珍しい」とおどける、ノーボギーでまわって4アンダーの68。単独3位スタートに「俺も頑張ればできるじゃん、って感じ?」と、思わず、自画自賛したのも無理はない。
現在、兼本の賞金ランキングは、72位。
まだ、来季のシード圏内にも入っておらず、いままさに瀬戸際なのだ。
「今週、出られなかったら、もうだめだろうって、ほとんど絶望視してたんです…」
土壇場で手に入れた“切符”で、好スタートを切ったからには、チャンスを最大限に生かし、このまま最終日まで、好位置で走り抜けたい。
予選落ち続きで悩みぬいたツアー前半戦から、いま再び徐々に調子は上向きなだけに、「自分に、期待している」と、兼本は、声を弾ませた。