今年からコーチ契約を結んだ江連は、最近になってたまに練習を見てもらっても、後ろで「グッドショット！」と繰り返すばかりだった。取り組んできたスイング改造が、完成に近づきつつあったからだ。
「スイングに関して、言うことは何もない。あとは気持ちだけ。自分は勝てる、と思ってやれるかやれないかだ」と、江連は言った。
足りないのは、前向きな心。
先週、3日目にトップに立ちながら敗れたミズノオープンでは、自身もそれを痛感していた。大事な場面で、「これでいいのかな」「あそこに外したらどうしよう」と、打つ前にさまざまに思いをめぐらせ、攻めあぐねる自分がいた。
「だから、今日は最後まで攻めていこう、と」。最終日は、余計なことは考えず、「思ったとおりのゴルフをしよう」と決めていた。

しかし最後の最後に、ピンチを迎える。1打差で迎えた最終18番。残り162ヤードのバンカーからの第2打をミスした。残ったのは、奥から2メートルのボギーパット。2位の高山、スメイルとは2打差。外せば、プレーオフ。
「最悪、プレーオフでもいい・・・」と、思ったそのとき、伊沢の目に飛び込んできたものがあった。
それは、2センチ幅の「ラッキーカラー」（伊沢）の黄色いライン。これから打つボギーパットの軽いフックラインが、神のお告げのように、伊沢には、グリーン上にくっきりと浮かび上がって見えてきたのだ。
「このラインを信じて打てば勝てる・・・」強い確信とともに打ったボールが、他人にはけして見えることのない“黄色いライン”をたどりはじめたとき、すでに伊沢は勝利を確信していた。
カップインの瞬間も見ずに、力強く下から上に突き上げたこぶしが、勝利の合図。「思わず、やっちゃってた。だって、初優勝のときよりも、ずっとずっと嬉しかったから！！」。

ボギーパットでガッツポーズ。過去にもそんな経験はなかったが、6月、訪れた滋賀県の比叡山延暦寺の大阿闍梨、酒井雄哉（ゆうさい）師も、こう言っていた。
「どんな形でも、勝てればいいじゃありませんか」。
「僕もそう思う。どんな形でもこうして、勝てた事実で充分だと」。
苦しんで苦しんだ末に再び手にした1年8ヶ月ぶりの復活優勝は、2000年の第1回大会以来、自身2度目のツアープレーヤーNO.1のタイトル。
「今回のゴルフは、賞金王になったときよりもずっと良い内容。ほんとうに、ほんとうに嬉しい！！」
ツアーきってのスインガーが、さらに進化をとげて帰ってきた。
写真＝普段は飄々と、あまり感情をむき出さない男が見せた涙と派手なパフォーマンスは、大ギャラリーの感動を呼んだ。「・・・僕としてもちょっとかっこよかったかな、って（笑）。あとでビデオで見るときも、まず18番のシーンからチェックしようかな、なんて思ってます（笑顔）」（伊沢）。

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• 伊澤 利光