Tournament article
サン・クロレラ クラシック 2003
『あれほどの人がまだ勝ってない。優勝って、そんなに簡単じゃない』マイペースを決め込む矢野東が唯一、気にかける相手は
最近では、中2回の予選落ちを挟んで、3位(マンダムルシードよみうり)、4位タイ(ウッド ワン広島)と連続してトップ5入り。今週も、初日の50位から11位、そしてこの日3日目には自 身初めての3日目トップタイに浮上。最終日は、今季2度目の最終組だ。
「どんどん尻上がりに良くなっていってるし、明日がとっても楽しみですね」端整な顔だちが たちまちほころんだ。
今年、全英オープンに勝ったベン・カーチスは同い年だ。深夜のテレビ中継でその顔に見覚え があった。すぐに心当たりの資料を繰って、しばし呆然。それは日大時代、98年の日米学生ゴ ルフ対抗戦で、ともに戦った相手だった。そのとき矢野は、大会レコードをマークして、カー チスは、個人優勝をあげていた。
学生時代、しのぎを削りあったライバルたちが、どんどん先を越していく。
今年初シードの矢野に対し、すでにシード3年目に突入する近藤智弘や、今年中日クラウンズ に勝った星野英正は、大学の同期だ。マンダムルシードよみうりオープンで初優勝をあげた谷 原秀人はその1つ下だが、
「意識するかって?僕は、他人の成績にはまったく興味がない。お金いっぱい稼げていいなあ 、くらいかな。他の人は関係ない」。
同年代たちの活躍にも、まったくの無関心。マイペースを決め込んでいる。「僕は、僕ですか らね」。
そんな矢野が、唯一、意識してやまない選手がいる。今季、7試合でトップ5入りし、賞金ラン ク4位につけている平塚哲二だ。
コーチの内藤雄士さんを介して、今年から練習ラウンドしたり、プレー後に連れ立ってパチン コに行ったり、行動をともにするようになった平塚には、一目置いている。
「今すぐにでも勝っておかしくない人が平塚さん。美しいスウィングに、抜群の安定感。見て いてほんとうに勉強になるし、ただ一緒にゴハンを食べるだけでも、刺激を受ける。おまけに 性格もすごく良い人で、ついついこっちが応援したくなってしまう人。早く優勝すればいいの にって、ずっと思ってる」
他の誰の話を振られても「別に気にしない」と突っぱねるくせに、平塚について語りだすとき ばかりは止まらないのだ。
「平塚さんに、“最近いいね”と言われるだけで嬉しくなる。いつもあとを追っかけてます」 。
今週は、その平塚の常に上を行っていることが、大きな自信だ。「今回、初優勝も先にしちゃ ったら?う〜ん、“お先ごめん”って言って、思いきり自慢できますよね」と笑ったが、すぐ に真顔に戻って、キッパリ言った。
「あれほどの人があんなに何回も優勝争いをして、まだ勝てないんです。なおさら、僕がそん な簡単に勝てるとは思わない」。分かっているからこそ、決戦にむけ気を引き締めずにはいら れない矢野だった。
写真= 昨年から矢野のバックを担ぐのは3つ上の兄、勅仁(まさひと)さん(=写真右)。「とっても頼りになるアニキです」と、絶大な信頼を寄せる一方で、勅仁さんがすでに2人の子持ちということもあり、「毎月、収入があるとは限らない不安定な仕事を、いつまでもさせておけない」という気持ちも、矢野にはある。
しかし勅仁さんのほうにも、「このままで終われない」という意地があり、とりあえず『初優勝をあげるまでは・・・』というのが2人の暗黙の了解なのだが・・・。