Tournament article
日本オープンゴルフ選手権競技 2005
片山晋呉が、4打差の逆転で念願の日本一の座に
厳粛な空気に、足を踏み入れるのも畏れ多いと思ってしまう。
その感覚は、初めてオーガスタに訪れたときと似ていた。
ジャケットを着込み、背筋を正してハウスに入った。
落ち着いたトーンの家具で統一されたレストランでは、ジャケットを着たまま食事をした。
日大2年時の92年、やはり廣野で行われた日本アマ。
あのときには分からなかったコースのよさが、今なら分かる。
マスターズ、全英オープン、全米オープン、全米プロ。
世界メジャーを何度も経験して訪れる廣野は、「たとえば、ここで全米オープンをやってもいいくらいの難しさ。何より、勇気を試されているコース。選手の技量を引き出す最高のセッティングは、世界のトッププレーヤーたちも絶賛するはずだと」。
ここでプレーができるだけでも幸せだと、そんな思いで心を一杯にしながら4日間を戦った。
同時に、「ここで勝ちたい」。
日ごとにその思いを強くした。
だからこそ、その瞬間こみ上げてくるものを堪えることができなかった。
この日最終日は、最終組の3つ前からスタートし、4打差の大逆転でつかんだツアー通算17勝目は、1年と3ヶ月ぶり。待ちに待った今季初優勝は、念願だった日本一のタイトル。
すべての競技が終わり、いったん引き上げた18番グリーンに、今度はチャンピオンとしてもういちど立った。
クラブハウスと18番をつなぐアーチ型の眼鏡橋。ギュっと唇を噛み締めながら一歩一歩、踏みしめた。
林の向こうから聞こえてきた大ギャラリーの歓声に、改めて沸き起こるこの思い。
「廣野で勝てたこと。それが何よりも嬉しくて。廣野の神様が僕に味方して、良い方向へ導いてくれたとしか思えない」。
財団法人 日本ゴルフ協会の安西孝之会長から受け取ったオープン杯。
錚々たる歴代チャンピオンと並び、ここに片山の名前も刻まれる。
「プロなら、誰でも夢見ること。それを、自分が実現したんだなって・・・」
涙で目を真っ赤に腫らしたまま、カップにそっと口付けた。