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日本プロゴルフ選手権 2007

伊澤利光「とにかく、早く勝ちたい」

3日目に、同じ最終組で回ることになった井手口正一は「僕のストーカー(笑)」。井手口のほうから「一緒に練習させてください」との申し出があったのは昨年のオフだった。断る理由もなく、2つ返事でOKしたが、特に伊澤から何かを教えることはない。
向こうが来るに、任せているからだ。

「たまに、難しいアプローチなんかで、これはどうしたらいいですかってイデに聞かれたら、俺ならこうするけどって。見て覚えろ、じゃないけれどね」。
それがいつもの練習風景。
今回は“教え子”に、優勝争いのゴルフを見せる絶好のチャンスだが「でも俺のほうがまだ、そんな偉そうに言えるレベルじゃないからね」と、浮かべた笑顔はどこか弱々しかった。

2001年と2003年に2度の賞金王。2001年には、マスターズで4位につけた。
「あのころは、ミスしてもOBなんか絶対にしない。ベスト10から外れる気がしなかったものだけど…」。
自信満々だった、あのころの面影はない。
「今は、ベスト10に入る気もしないよ」と、わざとおどけた表情に、後遺症の深さが垣間見える。
「またあんなゴルフが出来るのかな、という不安がある」。
笑顔の裏に、ガラスのような心を隠している。

クラブのマッチングに悩み、深刻なスランプに陥ったのは昨年。
「毎日のようにシャフトを替えたり、ロフトを替えたり・・・」。
ショットにも精彩を欠いて、11月には米ツアーから一時帰国していた丸山茂樹が心配してわざわざ会場に駆けつけたほどだった。
やむを得ず、シーズン途中にクラブ契約を解消するなど、試行錯誤を続けたが間に合わなかった。
賞金ランク78位でシード落ち。

たまに上位に顔を見せても、「どこかでポカをやる」。
あっという間に転落して予選落ちするか、もしくは平凡な順位に終わるか。
苦しんで、苦しみ抜いて、それでも自分をコントロールしきれなかった昨年のイメージが、「今も頭のどこかに残ってる」と、伊澤は言う。

だから、この日2日目。
通算6アンダーで、単独首位に浮上しても、まだこんな風にしかコメントできない。

「自分への期待が半分、諦め半分」。

ツアーきってのスウィンガーと呼ばれた美しいショットは依然として健在だし、「最近ではフェアウェーに行く回数が増えてきた」と本人も自覚しているが、それでも「また元に戻るかもしれない」という不安がふとよぎる。

昨年、片山晋呉が3年連続賞金王に輝いたが、それを阻止しよう、という気持ちにはまだなれない。
「とにかく、早く勝ちたい。…それからだね」。
この日本一のタイトルなら、何よりの自信回復となるはずだ。

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