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つるやオープンゴルフトーナメント 2008

S・K・ホが逆転V

もうグズグズしている時間はなかった。できるだけ早く、次のツアー通算7勝目が欲しかった。61歳になる母リ・スンエさんが、余命いくばくないと医師に告げられたのは昨年末。10年前に発病した乳ガンの容体が急変した。病院でも手の施しようがなくなって、いまは母国韓国ソウルの自宅で療養中だ。

昨シーズンは、2002年に初シード入りして以来、自己ワーストの賞金ランク47位に終わった。
長男・トンファくんが誕生し、生活のペースが激変。
愛妻家はたまのオフに自宅に帰るとすすんで子育てをかってでた。妻・ヘヨンさんをサポートし、いざコースに出ても、考えるのは家族のことばかり。

「成績が良くても悪くても、帰る場所がある」。
そんな幸せと安定を手にしたものの、ゴルフに集中しきれず不甲斐ない成績に甘んじた。
その間に、母親の病状は進行していた。

持って1年…。
「生きている間に優勝のプレゼントがしたかった。そうでなければ悔いが残る」。
悲壮な決意で迎えた今シーズン。
2戦目にしてチャンスはやってきた。

しかし一度はあきらめた。
この日最終日は首位の岩田寛を懸命に追いかけたが、16番の連続バーディで突き放された。
続く17番パー5は、チャンスホールだ。
「2打差どころか、あと3打差、4打差つけられる可能性もある」。

今季からバッグをかつぐキャディの島中大輔さんと、話した。
「ここまで精いっぱい頑張ったけど優勝は神様が決めること。2位で終われば次につながる」。

そう慰め合った直後だった。
目の前で信じられないことが起きた。岩田が、あがり連続のダブルボギーを打ったのだ。

普段からスイングや、試合の際の心理状態などについて意見交換を交わす仲。異国の地で戦うSKにとって、かけがえのない日本の友達と最終日最終組でまわり、最後の最後に崩れ去る様子を目の当たりにした。

「…岩田くんは、すごくもったいないことした」。
同じ選手として、その悔しさは手に取るようにわかる。

とても手放しで喜ぶことができないが、せめてこの戦いがシード2年目の彼の糧になれば、と祈るように話した。
インタビューで優勝の喜びを語る前に、「僕に負けたことが、いつか良い経験だったといえるように。頑張ってほしい」と訴えた。

友達思いの孝行息子は、「近いうちにいちど帰国して、できるだけ早く母親に優勝を報告したい」と静かに言った。



  • いちどは、キャディの島中さん(左)とV逸を覚悟して慰めあったが…
  • 母国で吉報を待つ母親のことを思って思わず涙…
  • 最愛の家族の前でV7!!

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