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谷口徹が地元奈良県の福祉施設を訪問(4月4日)

毎年オフの恒例行事には、やり甲斐を通り越して今や、「生き甲斐」すら感じる。もはや、これなしでは、ベテランのシーズンも開けない。今年も谷口が、開幕直前の“里帰り”。獲得賞金の一部をやりくりして、出身の奈良県の児童養護施設へ寄付をはじめて早9年目。さらに、県内9つの各施設を順番に回って、子どもたちとの触れ合いの時間を持つようになって7回目。今年は、元日のお年玉代わりに100万円相当の図書カードを子どもたちに贈った。
「うちみたいな施設はね、世間からも忘れ去られがちなんですよ」とは、この日4月4日に谷口が訪れた「社会福祉法人 葛城福祉園」の平岡恭正・理事長だ。谷口の実家からも、目と鼻の先にあるこの母子生活支援施設には、さまざまな事情を抱えて夜逃げ同然、「着の身着のまま逃げ込んできて、身を潜めている親子もここにはたくさんいるのです」(平岡理事長)。
本当は、誰よりも助けを必要としながら、その声を上げることすらも許されずに素性も、本名さえもひた隠しにしてひっそりと、暮らさざるをえない入所者がたくさんいる。
そんな事情もあって、世間からも見過ごされがちな施設にも、毎年こうして欠かさずに、思いを寄せてくれる谷口にはなおさら頭が下がると改めて、平岡理事長から感謝の言葉を聞ければますます、ベテランの張り合いも出てくる。
普段はシン・・・と静まりかえった施設も地元出身のヒーロー参上に、この日ばかりはお祭り騒ぎだ。
「最高のおもてなしで、谷口プロをお迎えしよう」と子どもたちが猛特訓を重ねたという合唱は、谷口が地元の共同募金会に託したお金で購入されたヤマハの電子ピアノが伴奏とあらば、子どもたちの歌声もいっそう引き立つ。
本来は、毎年7月の恒例行事だった「焼き肉パーティ」も“特別ゲスト”のためにと、3ヶ月も前倒しで開かれることとなり、谷口が門をくぐる頃には園庭にバーベQの煙がモクモクと、ベテランプロも食欲をそそられる。
美味しいお肉が焼き上がるまでの間に子どもたちと興じたスナッグゴルフ。中高生のお兄さん、お姉さんに混じって幼稚園の年少さんや、よちよち歩きの乳幼児までいて普段から、ツアーのプロアマ戦でも評判の教え上手の腕がなる。
「“きょうつけ”の姿勢で立ってみて」となんべん言っても、全然反対方向を向いてアドレスを取る子にもニコニコと優しい声で丁寧に、子どもたちの顔をのぞき込む視線のなんと慈愛に満ちたこと!
たどたどしいストロークながらもしっかりと、的に当てた子には「すごいすごい!」と拍手喝采。残念ながら、外した子にも「ああ〜、あかんかったなあ!」と、子ども目線で腰をかがめて頭をなでなでしてやる様子も普段の試合会場では、絶対に見せない素顔のひとつだが、自身も二児の父親であるだけに、実は子どもの扱いには慣れている。
交流会の前に、平岡良子・園長先生に「中には乱暴な口のきき方をする子もいるかもしれませんが、許してやってください」と、あらかじめ詫びの言葉を頂戴したが、そんなのちっとも気にしない。むしろ、元気一杯の子どもたちの様子が嬉しくて、得意のパター合戦でも、そのあと異色のフリスビー対決でもつい、大人げもなく力が入った。真剣勝負で盛り立てた。
代表児童3人がお礼の挨拶をしてくれる中で、子どもたちが順番に今の自身の夢を打ち明けてくれたことには、普段の強面もつい緩む。
「今年はもう46歳。ツアーでも、相当ベテランの部類になりましたけれども」。
今週も、つい2日前まで宮崎で過ごすなど、このオフも精力的に準備を整えてきたのは「大して力にはなれないかもしれない。それでも子どもたちには夢や目標を持ってもらいたいから。少しでも、その手助けがしたいから」。
毎年、施設を訪れるたびに、子どもたちの置かれた過酷な環境を目の当たりにして、いてもたってもいられなくなる。
「今年も少しでも、多く稼いで子どもたちの役に立てれば」と開幕を目前に、今年もまたそんな思いで心を新たにした谷口だ。
今年の活躍を祈る施設のみなさんには、万歳三唱で送り出されて気も引きしまる。「僕も精一杯頑張ります。みなさんも、ぜひ頑張ってくださいね!」。
この日、子どもたちから受け取った両手一杯の“ラブレター”もひとつ、大きなモチベーション。心のこもった手紙には、今季の成績で返事をするつもりだ。
今年も地元奈良県の共同募金会から感謝状が贈られた。 平岡園長先生の音頭で万歳三唱に気合いが入る!