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文句なしの2020新人王。金谷拓実の2021展望
今年終了時の平均パットと、パーキープ率で1位につけた。
平均ストロークは2位だった。
賞金ランキングは3位で終えた。
ずらりと並べた好スタッツの中でも特に本人の満足度が高かったのは、2位の「メルセデス・ベンツトータルポイントランキング」だった。
「全体を通してよかったことを示す数字と思うので。そこで上位につけられているのは良かったかなと思います」と、激動の1年を総括した。
10月2日に決断したプロ転向は、メジャー敗戦が強い動機になった。世界アマ王者として臨んだ9月の「全米オープン」で、1打足りずに予選落ち。「悔しくて、早く厳しい世界でやりたくなった」と、すぐ10月の「日本オープン」をデビュー戦に定めて7位に。
11月、史上初のアマ→プロ連覇を賭けた「三井住友VISA太平洋マスターズ」は5Tで逃したが、翌週の「ダンロップフェニックス」で、石坂友宏との学生対決を制してプロ初Vを掴むと、今年の最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」を5位で終え、出場全試合でトップ10の快挙を果たした。
ここぞの日の取材には、決まって「自分らしいプレーができるように…」と、答えてきたのは自分自身に言い聞かせるため。
「僕は、きれいなゴルフができないので。他の選手を見て、自分もあんなショットができればとか、もっと飛距離が出ればとか、つい人をうらやむ気持ちになりますけど、ないものねだりをしてもしょうがない。それより目の前の1打、ひたすら自分のプレーをやり続けられるように」。
全集中のゴルフで、プロ転向から2カ月で3639万5000円を稼いだ。
初賞金時は車を買い替える計画もあったが、V副賞で「メルセデス・ベンツ」を獲得して、「今はそちらに乗せていただける日が楽しみ」。
プロ賞金での最初の大きな買い物は、最新のスイング計測器「トラックマン」。
あとは以前から欲しかった、転戦用のキャリーケースをアウトレットで購入すると、それ以上の物欲もなくなり、在学中の東北福祉大で、チームメイトと今も慎ましく共同生活を送る。
「スポーツが大好きなので、ときどきみんなでフットサルや、草野球をするのが楽しみ。守備はショートとピッチャーです」。
22歳の広島県人の好物は、焼肉とお好み焼き。大学近くの仙台市内にある行きつけの定番「豚玉チーズトッピング」で若い食欲を満たして、年末ぎりぎりまで大学寮にとどまり学内で練習。
年始も、早々からまた練習だ。
「くつろぐ時間は、あまりないかな」。
来年1月14日に開幕する米「ソニーオープン・イン・ハワイ」に、特別選手枠で出られる。
現在の世界ランキングは日本勢5番手の122位につける。
「頑張れば、オリンピックも出られる。優勝するつもりでプレーして、少ないチャンスをモノにしたい」と正月返上で挑む。
「練習や、トレーニングが時々つらいな、と感じることもありますけど、それも『仕事』と思えば今まで以上に頑張れる。そんなとき、自分もプロになったんだなと自覚します」。
初めてプロの試合に挑戦した15歳時は、風が吹けば飛びそうなくらい痩身で、どんなにきつくベルトを締めても毎ショットでシャツの裾がはみ出していた。
だが、大学入学後は先輩の松山英樹を手本に、4年で15キロの増量に成功。
どっしりとした下半身を手に入れた。
「松山さんも、高校時代は今よりずっと痩せていて、大学で体を作ったと聞きました。監督から当時の鍛え方を教わったり、ナショナルチームの指導で僕も成長できた」。
先日、久しぶりの再会で、松山にも今年の活躍をほめられた。「嬉しかったですけど、今は自分も同じプロという立場」。
憧れの時代はもう過ぎた。
「早く追いついて、僕も世界でプレーできるように頑張ります」。
いつか偉大な背中もとらえてみせる。
金谷拓実(かなやたくみ)
1998年5月23日生まれの22歳。広島県呉市出身。5歳からゴルフを始め、広島国際学院高校2年時の2015年に、17歳51日の最年少で日本アマ制覇。同10月の「日本オープン」は11位で、17歳148日の最年少でローアマ獲得。3学年時にプロ入りを目指してQTに挑戦したが失敗。東北福祉大に進んだ。
3年時の19年に「マスターズ」と「全英オープン」に出場。同年8月には世界アマランク1位に浮上し、11月に三井住友VISA太平洋マスターズで、史上4人目のアマVを達成。
今年9月に日本人初のアマ最高峰「マーク・マコーマックメダル」を受賞して、10月2日にプロ宣言。ツアー通算2勝。身長170センチ、体重77キロ。