怪力ルーキーの最近の口癖は「サインしてきていいですか?」。
新人の河本力(かわもと・りき)が、いつもプレー後に気にするのはファンサービスのタイミング。
特に好位置で上がったラウンド直後は、テレビや公式会見など忙しくなるが、寸暇を惜しんで「ちょっとだけでもサインをしてきていいですか?」と、待ちかねるファンの前に飛び出していく。
「応援ありがとうございます!」と、よく響く大きな声で挨拶しながら、サインや写真撮影に対応するのが昨今のルーティンだが、そういう旺盛なサービス精神が、プレー中に大ピンチを招くことも。
「お客さんが僕のショットを見て驚いたり興奮してくれたりすると嬉しくなる」と、期待に応えてドライバーを大振り。
8月の「Sansan KBCオーガスタ」に続く2勝目を飾った10月の「バンテリン東海クラシック」は計測の15番で初日に378ヤードも飛ばした。
豪打を結果に直結できたときは良い。
でも、暗転すれば目も当てられない。
河本が今季、元来の強さを発揮できたのは、数々の失敗から学び、考え、自分の弱さと向き合い続けて克服につとめてきたからだ。
転機は、日体大後輩の中島啓太とアマVを争ったが豪打を曲げまくり、ボロ負けした昨年9月の「パナソニックオープン」だった。
「ケイタの優勝が僕に火をつけた」と、それを契機にお姉さんの結さんの紹介で、中野達也トレーナーに師事。
「それまでは凶器だった」と、自認していた豪打を死にものぐるいの鍛錬と、増量計画で「武器」に携えプロデビューを迎えた。
激動の今季、開幕初戦の4月「東建ホームメイトカップ」をもっとも印象深い試合の一つに挙げたのは、プロ最初の予選ラウンドを桂川有人(かつらがわ・ゆうと)と大西魁斗(おおにし・かいと)と回れたから。
「すごく緊張した中でしたが、素晴らしい選手とご一緒できた。デビュー戦でお2人と回らせていただいて、……ユウトさん、ありがとうございます」と、今月5日の「ジャパンゴルフツアー表彰式」の会場で、一緒に登壇を待っていた桂川に改めて感謝を述べていた。
「ABEMAツアーで頑張ろうと思っていた」という今季は、その後もその3人で、たびたびV争いすることになるとは想像すらできなかったが、「そのあとその3人で初優勝もできて、すごく良い1年になりました」と、先週終了の男女シニア対抗戦「Hitachi 3Tours Championship(日立3ツアーズ選手権)」では3人揃って初メンバー入りを果たせたことも、河本には感慨深い。
ルーキー年の2勝は、記録が残る1985年以降でいうなら松山英樹(2013年、4勝)と金谷拓実(20ー21年、2勝)に続く史上3人目の快挙である。
飛距離1位も余裕で獲れた。
「オフに取り組んできたことが、結果につながったのが嬉しい」と喜んだが、あまりに飛びすぎるがゆえに、新記録が夢と消えたのは残念だった。
前週まで平均318.36ヤードで入ったシーズン最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」は、そのまま逃げ切れば、2019年にチャン・キムが記録した史上最長315.83ヤードを更新するチャンスだったが、計測の12番でついに4日間とも1Wを持つことができなかった。
「ドライバーなら340ヤードは行けたと思う」との確信はあっても、当該ホールはOBと紙一重だ。
目先の欲にとらわれず、自制を効かせて刻みを選択。
そのため、最後の最後に数値を落として0.09ヤードの僅差で今年は新記録の樹立を逃したが、過去の反省を生かせたという点では、それもひとつの成長の証しだ。
賞金ランキングの資格で米デビューを飾った10月の「ZOZOチャンピオンシップ」は、憧れの選手たちに囲まれ「浮かれすぎた」と72位に沈んだが、海外勢にひけを取らない豪打はアピールできた。
「来年は320ヤードを目指しますよ!」と新記録も諦めず、飛距離と結果の両立を求めて歩く。
「次は日本で賞金王を獲って、世界ランキングも上げて、目標のPGAツアーにも近づけるよう頑張ります!」。
2年目の和製リキが、今度はどんな怪リキで魅せてくれるか