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初の代表をつとめた小田孔明は最終日の快勝に
最終日のシングルスマッチの相手は、前日2日目のファボールで、石川遼と組んでこてんぱんにやられたアレクサンドル・ノーレン。
「絶対にリベンジする」。
あまりの気合いの入れように、3日間でもっとも気温と湿度が上がったこの日の暑さも、途中で忘れてしまったほどだ。
昨日は、スタートホールでやられた。
「だから今日は、こっちが1番、2番で先手を取る。負けてたまるか」。
有言実行の2番ホールは、ラフからラフを渡り歩いてチョロを打ったノーレンを横目に小田はこの日、最初のバーディを奪うと、完全にゾーンに入った。
勝ち点を持ち帰れなかった前日。最終日の組合せについて気にかけるキャプテンの尾崎直道に、小田はこともなげに言ったものだ。
「僕は、誰と当たっても大丈夫ですから」。
予感があった。
深いラフを警戒し、自慢の飛ばしも今回は封印。ティショットは多少、距離が残っても徹底してフェアウェーに置くとして「あとはアイアン次第で明日こそ自分のゴルフが出来るはず」。
そう言ってはばからない小田に、再び前日の宿敵をぶつけてきた直道の采配がみごとにハマった。
人一倍、負けず嫌いの男がこれ以上ない材料をくべられて、心を燃やさないわけがない。
前半は、ほとんどフェアウェーもグリーンも外さず、「とにかく先にチャンスにつけて、プレッシャーをかけ続けた」。
後半からは、ますますアイアンが冴え渡り、昨年11月に連覇を達成した「カシオワールドオープン並みの切れが戻ってきた」というほど絶好調で、「これは行けるな、と」。
2アップで迎えた11番で、ティショットを池に入れたが気にしない。
続く12番は、ピンそばの1メートル。このチャンスこそ外したが、13番でまたもや1メートルのチャンスにつけると14番パー3は、カップまで80センチのスーパーショットだ。
ドーミーホールの15番も容赦なく攻めてピン右1メートル。あがり怒濤の3連続アップは5&4の圧勝で、ノーレンに昨日の借りをきっちり返した。
小田が今回の代表メンバーに決まったのは、12月も半ばを過ぎたころだった。
最初、出場する予定だった池田勇太が怪我の治療を理由に代表を辞退した。
ふいにバトンを渡され、内心は「予定がちょっと、狂ったかな」との思いがちらりとよぎった。
「今年も正月からガンガンにトレーニングをするつもりだったんだけど……」。
真冬の日本からいきなり灼熱の国に来て、空港に降り立つなりその暑さにもうんざりしたものだ。
練習ラウンドで、「帰ったら勇太に日焼け代をもらわんといかん」と軽口をたたいていたが、全力で戦い終えたいまは「ここに来られて本当に良かった」。
生まれて始めて経験した団体戦。「どんなものかも分からずに、僕はただ、いつものストロークプレーみたいにがむしゃらにやっただけ」。
駆け引きもなかった。その戦術や、醍醐味とやらにもいまだにとんと実感がないが、ゴルフでチームに貢献するという喜びは、確かに体の底からジワジワと沸いてきた。
チームが負けたのはもちろん悔しいが、自身のマッチで全力を出し切った。
まして「自分がポイントを稼げたことは、相当に嬉しい」。
そしてチームで真っ先に勝利をあげた喜びもさめやらぬまま、決着をつけたその足で、接戦を演じていたチャーリー・ウィやW・リャン、ジェイディらのもとに駆け付け、グリーンサイドから声援を送った。
仲間が勝ち点を挙げる瞬間は、自分のときよりも数倍も嬉しかった。
普段のストロークプレーでは、けっして感じることのできない感動が、そこにはあった。
暑さと、興奮と、歓喜で頬を真っ赤に上気させ、「帰ったら、勇太には本当に楽しかったと伝えたい」。新年早々に土産話がいっぱいできた。正月返上でタイにやってきた甲斐は十分にあった。