Tournament article
ANAオープンゴルフトーナメント 2013
小田孔明が2年ぶりのツアー通算6勝目【インタビュー動画】
表彰式で篠辺修・大会会長に着せかけられた、生まれて初めてのウィナーズジャケット。過去5勝とも、ジャケットの副賞がない大会だった。それだけに鮮やかなANAカラーのジャケットが嬉しくて、ハシャぎすぎて「アイテテテ・・・」。袖を通す瞬間に、肩関節が一瞬、外れるハプニング。
よく、格闘家にも間違われる立派な体躯もそのせいで、せっかくの優勝杯を高く掲げられなかったのは少々、残念だった。久しぶりの晴れ舞台で前代未聞の“脱臼劇”は、「よくやるんスよ」と、照れくさそうに頭をかいた。
久しぶりのV争いは、緊張でショットが乱れた前日3日目。「でも今日は、まったくプレッシャーがなかった」。ドライバーも、4日間で一番飛ぶし、不思議と体もよく動く。同じ最終日最終組でも「これが、追いかける立場なら、こうはいかない」。過去5勝は逆転Vが一度もないという現実に、屈強な体も縮こまる。
でもひとたびトップに立てば、「それがたとえ1打のリードでも、絶対に逃げ切れると思える」。
ここ数年で、体に染みついた勝利の美学。
「3年ほど前に、誰だったかに言われたんです。3日目に首位に立ったらぜったに勝たなければいけない、と」。その教えをかたくなに守って、過去5勝ともみごとな逃げ切りVは、小田に確たる自信を与えていた。
前半は、一つ前の梁津萬 (リャンウェンチョン)に1打差まで迫られて終盤は、片山晋呉がじわりと詰め寄ったが、「勝てる」との確信は、最後まで揺らぐことはなく、この日は小田がもっとも畏れたという昨年覇者も、「どスライスが奇跡的に決まった」と11番で、25メートルものバーディトライがカップに沈むと賞金王は、それを契機にスコアを崩してもはや敵なし。
「藤田さんが乱れだしたので、なおさら勝てると思った」と剛胆に、片山とは3打差がついていると分かった17番では、果敢にドライバーを握ってフェアウェイのど真ん中。1ミリも隙のないゴルフで、2日目からの一度も首位を明け渡さずに、逃げ切った。
初優勝の2008年から毎年重ねてきた勝ち星が、途絶えたのは昨年。「調子が悪いという自覚はない。でも、4日間のうちどこか1ホールで8とか9とか打ったり、結果につながらない」。だからなおさら勝つことに、飢えていた。特に今年は本間ゴルフと新たに用具契約を結んで、「だから弱くなったとは、絶対に言われたくなかった」。
小田のために、日夜クラブ開発に取り組み、それこそ毎週のように、新しいクラブを作ってくれたり献身的に支えてくれるスタッフのためにも、「優勝して返したかった」。
この夏は、マネージメント契約を結ぶJOYX(ジョイックス)主催のオープン競技で、兄貴分の伊澤利光が、飯田光輝トレーナーに耳打ちをした。
「孔明はトップで肩が回ってない」。さっそく、トレーニングに肩の可動域を広げる新メニューを加えたり、影ながら復活を支えてくれた。表彰式で脱臼した肩も、その場ですぐに治してくれた恩人。「勝てない間、心配してくれた人たちのためにも、出来るだけ早く勝ちたかった」と、最高の形で報いた。
いま、賞金ランキングは1位でぶっちぎる21歳。「英樹は強すぎるけど。30代にも強い選手はちゃんといる」。松山が、しばらく日本を離れる目前に、今季4勝目を狙っていた今週。「あいつがアメリカに行く前に勝てたことも嬉しい」と、35歳の中堅プロの自負を見せつけられたことも感慨深い。
「英樹にも、まだまだ簡単には負けたくないから」。
現状、賞金ランキングでは断然水をあけられ、苦手とする追いかける立場だが、来月から海の向こうで奮闘する新人を脅かす活躍で、孔明の新境地を切り拓いてみたい。