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ダンロップフェニックストーナメント 2018
市原弘大が宮崎で、神懸かりなV2
その瞬間、クラブハウスがざわついた。師匠の谷口徹は、湯船で吉報を聞いた。「プレーオフだと思ってゆっくりしていた」という。だが堀川が、最後の18番でパーパットを外した。市原に、大逆転のビッグなV2が転がり込んだ。
「まさか」とポカンとした本人よりも、たまげたのが谷口だった。
恒例の勝者の儀式。谷口がひとり出遅れたのは6月。市原がプロ18年目の初優勝を飾った「日本ゴルフツアー選手権」。それでも伊能キャディに連れられて、あとから市原めがけて浴びせた水シャワーは水量がイマイチだった。#勝者の儀式・宍戸編
二の舞は踏まないと洗髪もそこそこに、風呂場を飛び出した。武藤らと、ペットボトルの水を手に、18番に駆けつけ準備万端。表彰式に臨む後輩の体があくのを今かと待った。
5打差から出た最終日は「神懸かっていた」と、市原は言う。
6番で、10メートル強のバーディトライが決まった。
9番のパー4は、8Iで打った151ヤードの2打目が入った。
「良いショットでも、最後に入るかは運。今週は運に恵まれた」と、奇跡のイーグルに続いて10番ではピンそばのバーディ。
「ターニングポイントになった。一気に優勝を意識した。気合いが入った」と、最終組の3つ前から大接戦を仕掛けた。
最後の18番パー5は52度のウェッジで、105ヤードの3打目がまた入りかけ。「1日2回も入ったら自分が怖い」とさすがに背筋もざわめくピンそば1メートル弱。
「上りの真っ直ぐ」を迷いなく沈めて達成感だけがあった。
「結果はどうあれ、ベストのゴルフが出来た。やることはやった。あとは良くてプレーオフ。もしくは2位」との覚悟で最終組を待ったが堀川がまさかのボギー。
5打の大差から、堀川の初Vを封じてみせた。
世界1位の3連覇も阻止した。そのケプカにウィナーズジャケットを着せかけられて、「素晴らしいし、ありがたいし、嬉しいけれど。僕も選手である以上、少しでもそこに近づけるようにこれからも頑張る」。
ただ仰ぎ見るだけでは済まさない。
7月に再挑戦した2年ぶり3度目の全英オープンは、予選落ちでも8月のWGCブリヂストン招待では手応えも感じた。
「年齢的には35歳を超えましたけど、気持ちは若く、これからもメジャーを目指して、結果をだせるように頑張りたい。アジアやヨーロッパにも挑戦したい」。3連覇を逃した世界1位と表彰式で対面してひるまず言った。
最終日もポップで賑やかな勝負パンツは「豚と牛と鶏とチョウザメ。宮崎県の畜産物が描いてある」。
今季から、県発のウェアブランドP’MAS(ピーマス)さんを着て戦うことになった。
昨年、シード落ちをしたにもかかわらず、提供を受けられることになって、メーカー発祥の地で行われる今大会に出たい気持ちはやまやまでも「今年はQTからの選手だったので最初、権利はなかった」。
シード選手でさえ敷居の高い今大会に、6月の初Vで“凱旋出場”を果たしたばかりか賞金4000万円のビッグな“凱旋V”でアピールして「少し恩返しが出来た」と、2勝目もまた恩人を思って涙がこぼれた。
今度こそ楽しい仲間と、皆一緒に豊富な水量で祝ってくれた師匠。#勝者の儀式・宮崎編
ここフェニックスは毎オフ恒例の宮崎合宿に加えてもらい、共に研鑽させてもらう地でもある。
「谷口さんと、ここで一緒にやらせて頂くおかげでこの結果に繋がった」。
尊敬する大先輩とのまさにゆかりの地で報いることが出来たことにも感無量だ。
ここ宮崎は、神話のふるさと。
湯浅文乃トレーナーは真っ先に、勝者の体を気遣った。
原因不明の偏頭痛をこらえて68で回ったのは3日目。
そしてこの日最終日は1番のティショットで生じた背筋痛に、ひそかにうめきながらも常に笑顔を絶やさず、技術と精神力が問われる難コースで63を出した。
日本の出場権を持たない時代に回ったアジアンツアーでその笑顔と誠実さに、ついたあだ名が「スマイリーフェイス」。
そんな市原の勝利を願う、たくさんの人々の祈りが届いた奇跡の大逆転劇だった。