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フジサンケイクラシック 2000

「どれだけこの日を待っていたか…。7年間は苦しくて、長かった」尾崎健夫 -1

どれだけこの日を待っていたか…。7年ぶりだけど、3年ほど前から優勝のチャンスもあって。でも、どうしても足りないものがあって、それがどうやっても自分では補いきれなかったんだ。分析してもね。…もしかしたら答えは簡単だったのかもしれないけれど、勝つ瞬間にしかその答えは出ないんだろう、と思ってやってきた。そういう意味では、今回よく克服したな、と思うよ。自分でも驚いている感じだね。
しかし結局、勝つ瞬間に出る答えってのがなんだか分からない。今はまだ頭がボーっとしているから…。でも、きっと心から『勝とう』と思う強い心と、勝つためのものすごい努力が必要なんだってことかな。…今となれば、それを続けていたから、よかったんだと思う。こうして勝てるまでは、『そんな努力、誰でもやってるよ』とか思っていたけれど…。
 勝った確信なんて、スコアカード出すまでわからなかったよ。それくらいボーっとしてた。今だって…まだボーっとしてる…。本当は、自分がイップスだってことは適当に隠しておこうと思ってたんだけど、スポーツ紙があんまり『イップス、イップス』って書くもんだから、こうなったらもう逆にさらけ出して、みんなに見てもらいながらやろうかなって思ったんだ。また、そうすることで、別のドラマが見つかるかもしれないな、とも思ったしね。昨年までの3年間、長尺パターを使っていたわけだけれど、それも『腰が痛いし、ちょっと手の動きが悪くなってきたからだよ』なんて言って、見栄をはっていた。でも、本当は切実で、全然まっすぐに手が動かなかったから…。今回の優勝は本当に嬉しい、心から。
イップスって、構えたときが怖い。バックスイングがひけなかったらどうしよう、と考えてしまうわけなんだ。パットに関しては、技術とかはもう超越してしまって、どうやったって、思うようにできなかったんだ。
それでも、長尺を3年間使ったことは本当によかったと今でも思う。というのは、イップスって目から来る病気だからね。長尺パターって、10メートルとかそういうロングパットは入らないパターなんだよ。『入らない』って言ってしまったら御幣があるけど、本当に入らない。自分にもうひとつ足りないものはそれじゃないか、と。
 やっぱり優勝するには、ラッキーパンチがないといけない。つまり、常に確実に2 パットでいける距離にショットしながらも、苦しいときにはたまにそういう長いのが最後のひと転がりでコツンと入って、ロングパットでバーディを奪うこと、これが必要なんだ。
これまで見てきた中で、優勝する人はみんなそういう、・・・技術を超越した何かが起きて勝っているからね。そういうパットで展開がガラっと変わるってことなんだ。
 それと、あとはパー5での2オン。その2つが勝つための大きなポイントだ。今回の僕の場合も、3日間、ほとんどパー5は2オンしている。でも、最終日になるとちょろっとグリーンをこぼれたりして、スーパーショットになりきれなかったりするんだよね。 最終日の大事な場面で、コロンと入ったり、乗ったりして、はじめてスーパーショットといえる。
 そう気付いてから、今年に入って唐突に長尺パターから短いパター(34.5インチ)を使い出した。長尺だと、ラッキーパンチはありえない、と思ったから。
 今日のラウンドの中で今回は僕にとって、『じゃあどれが“ラッキーパンチ”だったんだ』といわれれば、やはり前半の短いパット、全部だね。全部、震えながら、一瞬気が遠くなったりしながら、なんとか入れていったから。
しかし、昨日と同じで、13番の20センチのパット、あれは急に考えこんでしまった。 20センチをマークした瞬間から、嫌な感じがしてキャディに『これはどうやったら入るんだろう』って聞いたんだ。でも、『これを入れたら勝てるな』とも言ったんだけど・・・。でも、そういうやな感じを持ったパットは、やっぱりはずれてしまったわね。それまでの前半に、短い“ラッキーパンチ”があったから、助かったわけだ。
…しかし、短いパットのことを”ラッキーパンチだった”なんて言ってるようじゃ、問題外なんだけどね。
それはイップスに悩みながらも勝った、今回の場合に限って言えることで、もう次から、短いパットを“ラッキーパンチだった”なんて言ってるようじゃ、勝負にならないよ。
今日は、見てるお客さんも『いったい何なんだろう』って思ったろうね。こんな迫力のないゲーム展開になってしまったこと、許してもらいたい。この次からは、もう少し、ハードなスピリットでやりたいと思う。
今日は精神的にも、自分をコントロールできるほどの余裕がなかったんだ。下と何打差離れていようが、余裕のなさは同じだった。ただ、ショットにはパットの不調がうつらないようにってそのことだけはずっと考えていた。ゴルフは最後の最後が肝心で、それさえ普通にいっとけばいい。今くらいのショットがあれば、かなり高いレベルで戦えるんだけど、それを全部壊してしまうのが怖かったから…。まあ、長いこと苦しんできたことが、最後の最後に助けてくれたかな〜って思ってはいるけれど。

しかし、勝負に余裕を持ってしまったら終わりだよ。今回も、7年ぶりに勝ったからこれで余裕ができた、って思ってしまったら、また同じめにあう。若い子が初優勝して、2 回目からなかなか勝てないっていうのはそれだろう。余裕は絶対に持っちゃいけないもんだと思う。

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