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ANAオープンゴルフトーナメント 2006
水巻善典「“年寄り”が、今してあげられること」
結果は、もちろん欲しい。「もっともっと力をつけて、シンゴに追いつけるようなゴルフがしたい」という欲もある。
だが、それ以上に「若い子たちと一緒に、こうしてゴルフができることの楽しさのほうが大きい」と、水巻はいう。
練習場で球を打っていると自然と選手が集まってくる。プロ21年のベテランに、何やかやと相談を持ちかけてくる。
それに、ひとつひとつ丁寧に答えてやっている。
ツアー通算7勝。93年には念願の米ツアーに参戦。メジャーにも出場した。
「“年寄り”がいま、してあげられることは何か・・・。経験してきたことを、みんなに分け与えること。諦めないで頑張れと、応援してあげること。それによって結果を出したり、報告しにきてくれるのがすごく嬉しい」と、目じりを下げた。
2週前のフジサンケイクラシック。
今季2勝目の優勝インタビューで、片山晋呉が打ち明けた。
「水巻さんの言葉で、気が楽になった」と。
頂点に立ったものにしか分からない悩みを抱え、苦しんでいた。
賞金王に、手を差し伸べたのが水巻だった。
「・・・いや別にね、特別に何を言ったわけじゃないんだけれど。ただ、シンゴは、シンゴを応援してくれる人のために、シンゴらしくやればいい、と。もちろん、僕の言葉なんかなくても彼は勝っていたはずだけど。それでも、優勝インタビューなんかもとてもシンゴらしくて良かったし、そういうのを見ていて、なんか本当に良かったなあ、と・・・」
しみじみ語るその表情は、まるで“親”そのもの。
「・・・そうだよ。もうほとんど、子育てしてる親の気持ちだよ」と笑った。
2003年にシード落ち。そのときポツリと、「目標が見つけられなくなったんだ」とこぼした水巻は、そのあと約1年半、日本ツアーから姿を消した。
昨年6月に復帰を果たすまで、トーナメントや試合の類いには、いっさい出場しなかった。
アメリカに渡り、たまにテレビ解説の仕事などしながらほとんどの時間をフロリダに住む家族と過ごした。
十分すぎるほどの充電期間が、そのうちひとつの事実を水巻に伝えてきた。
「俺には、ゴルフしかないってこと。もういちど、一所懸命やれることが欲しくなったんです」。
ファイナルQTランク2位の資格で出場権を取り戻した今季は、「お金を稼ぐことよりも、この年になってもまだ一生懸命に打ち込めることがある有難さを感じながら、ゴルフをしている」と、語った48歳。
この日初日は首位と3打差の3アンダーと好スタートを切って、ここで一気にシード権の奪回を、という考えもなくはないが、「もし今年、取り返せなくてもまたQTから行けばいいから」。
そうカラっと語るそばからまた、ひとりの若手が水巻に近寄ってきて、スイングの悩みを打ち明けていた。