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ABC チャンピオンシップ 2006
片山晋呉が大会連覇
122ヤードの第2打をピッチングウェッジで放り込み、一番驚いたのは本人だ。
「あんなことは、今までにもない」。
同じ組の宮里優作は「神がかり的・・・」と、絶句した。
奇跡のスタートに、片山は逆にたづなを締めなおした。
「いつもがむしゃらにやりすぎて失敗する。今日は冷静に、普通にやろう」。
淡々と、精度の高いショットでピンを刺した。
「ミスというミスもなく、むしろ今までに打てなかったような球が打てていた」。
たとえば、11番のセカンドショット。
ライは左足下がりの前足上がり。
左からの風に対して、ピン位置は左奥。
その状況で以前なら、右手前5メートルに乗せるのが精一杯だっただろう。
8番アイアンで、左真横3メートルにつけてバーディを奪って確信した。
「今日は僕の日、と」。
叩き出したコースレコード新の62は自己ベストタイ。
ヤンと並んで通算17アンダーにして、迎えたプレーオフ2ホール目。
バーディパットは、7メートルの「上り2カップスライス」。
このウィニングパットを、中尺パターでど真ん中からねじこんで片山が吼えた。
2度、3度と咆哮した。
やはり18番で劇的イーグルを決めて激戦を制し、全身をバネにして4回、5回とその場を飛び跳ねたのは2005年。
「去年といい、今年といい・・・ドラマティックでエキサイティング!!」。
ジャンボ尾崎ら偉大な歴代のチャンピオンたちが、数々の名勝負を残してきたここABCゴルフ倶楽部に、また新たな歴史を刻むことができた。
昨年の自らの優勝シーンを上回る劇的展開で、史上初の連覇を達成。
満員のギャラリーに向かって叫ぶ。
「みなさん、興奮してくれましたか〜!?」。
大好きなゴルフで、最高のプレーを披露してファンに喜んでもらうこと。
それが生きがい。
「関西のファンはゴルフを分かってくれるから。最後のバーディパットを入れさせてくれたのは、みなさんの力です!」。
そう言って、真っ先にスタンドに駆け寄った。
ポケットにあった分では物足りず、さらにバッグから新しいのを取り出して、ありったけのボールを投げ込んだ。
チャンピオンからの、せめてもの感謝の気持ち。
ファンと一体となって戦う大切さを改めて思い知ったのは、その週26日の木曜日だった。
今シーズン限りの引退を宣言していた日本ハムファイターズの新庄剛志選手が日本シリーズで、涙、涙の“日本一”。
その様子をテレビで余さず見た。
「・・・男の涙って良いもんだな、と。新庄さんの思いが伝わってきてジーンときた。僕も彼のように、喜びや悔しさをもっと表に出してプレーしよう、と。見ている人を感動させたかった」。
そう心に誓ったわずか3日後に自らのプレーで、負けず劣らずのドラマを演出できたことが片山には何より嬉しい。