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関西オープンゴルフ選手権 2009
沖野克文「優勝を狙うと混乱するから」
今週も、もちろん一緒に練習ラウンドをこなした。
そのときに富田は、「このコースとは全然合わない。調子も悪いし、絶対に予選落ちする」。
そう言い切っていたのに、ふたを開ければ初日になんと、9アンダー。
これには、沖野も空いた口がふさがらず、「お前は、ほんとにうそつきだわ……」と、なじってみたが、富田ならばさもありなん。
沖野の2つ年下だが、富田はシード3年目、ツアーはすでに1勝をあげており、「俺なんかとは、全然比べもんになりません」と、対抗意識を燃やすわけでもなく、「僕は、ただ地道に稼いで出場の機会を増やしていくつもりで」と気負うことなく、後輩の背中を追いかけた。
前日初日はバラバラだったショットが、この日は「なぜだが急に当たり出した」。
スタートの10番で1メートルのバーディチャンスを決めると、がぜんパッティングにも自信がついた。
通算8アンダーは首位の富田と3打差の3位タイに浮上したが、「優勝? いえいえ、まさか狙いませんよ」と、即座に否定した。
「僕がいきなりそんなの狙うと頭が混乱して、わけ分からんようになってしまいます」と苦笑したのも無理はない。
プロ11年目の今季、ようやく掴んだツアーの出場権だ。
当時、ハンディキャップ6の父・克征(かつゆき)さんの勧めで15歳からゴルフを始めた。山口県下関市の東亜大学を卒業時に「プロになりたい」。
猛反対した克征さんに、「3年の猶予」を与えられ、その2年目にプロ転向を果たしたもののその道はめっぽう厳しく“転職”を考えたこともある。
デビューを機に住まいを兵庫県の神戸市に移したが、いよいよ生活も行き詰まり、泣く泣く広島の実家に舞い戻り、いちからのスタート。
妻・未央(みお)さんと、2人の娘にも「わがままな俺を許してくれ」と、頭を下げないではいられなかった。
「これでダメなら本当にもう諦めよう」と決めて挑んだ昨年のファイナルQTでランク19位に入り、まさに土壇場でつかんだツアー切符だ。
「ここで勝てるくらいなら、もっと前に出場権を取ってます」と、自嘲の笑み。
絶好のチャンス到来にも、無邪気に向かっていけない。
「家族への迷惑」も承知の上で、夢を追い続ける33歳は、「ハードルが高すぎるとコケるから。後半戦も試合に出られるように……。明日もそれだけを考えてプレーします」と、謙虚に話した。