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カシオワールドオープン 2008
小田孔明がツアー初優勝!!
「寿命が2年は縮んだ」と苦笑するのは大会3日目だ。
強風に苦しみ、入れ替わりの激しいゴルフに特に後半、パーを拾ったのはついに10番のひとつだけ。
バーディ、ボギーを交互に打ちながら、必死に首位を守った。
4打差で迎えた最終日は、前日とはうって変わって「最後まで落ち着いてやれた」のは、諸先輩の励ましと助言があったから。
朝のスタート前は、選手たちの“ストレッチ場”と化すクラブハウスの風呂場で賞金ランク1、2位の片山晋呉と矢野東から口々に言われた。
「2番、3番でボギーを打つなよ、と。ボギーを打ったら追いつくからな、と…。完全にいじめでした」と笑いつつ、「そうやって、励ましてくれているんだ、と」。
前夜は眠れず映画で時間をつぶし、翌朝は4時半に目が覚めたほどのプレッシャーも、おかげで楽になったと感謝した。
偉大な人からのメールにも救われた。
1つ下の大親友、中島雅生の父・中嶋常幸がこんなメッセージ。
「勝つのも運、負けるのも運。あとは天に任せろ」。
さらに緊張は吹き飛んで、最後の決定打は片山だ。
「来週、シリーズで待ってるから」。
今大会直前の小田の賞金ランクは31位。
だから、これが自身の最終戦となるはずだった。
だが片山に「勝って来い」と、言われて発奮した。
初シード入りを果たした昨年から何度も迎えながら逃してきたチャンス。
今度こそ、がっちり掴んで離さなかった。
土壇場のツアー初優勝で、先輩らの気持ちに応えた。
政治と軍事の両面で、千人に一人という非凡な才覚を発揮して、特に「赤壁の戦い」で活躍した諸葛孔明。
その人に憧れた父・憲翁さんは、「勉強ができる子になるように」とこの名をつけながら、しかし息子が小1から本格的にクラブを握り、「プロになる」と言った瞬間から「勉強はしなくていい」。
かわりに腹筋、背筋、腕立て、スクワット、鉄アレイ・・・。
各300回の「地獄」のノルマを課して、少しでもサボると“愛の鉄拳”が飛んできた。
あのジャンボ尾崎も見惚れる屈強な肉体は、そのたまものだ。
「普通に振っても300ヤードは楽に飛ぶ」という豪快なスイングも、レッスン書と首っ引きで憲翁さんが叩き込んでくれたもの。
昨夏に重傷を負い、福岡県・田川市の実家で吉報を待つ父はこの週、一度も電話を寄越さなかった。
誰よりも息子の活躍を願いながら、「自分のせいで、プレッシャーがかかるのを避けたかったのでは」と父親の心情を思いやり、「テレビで優勝した姿を見せられたことが、何より嬉しい」と、チャンピオンはしみじみと言った。
今年開幕前に、二児の父親になった心優しき孝行息子は「近いうちに優勝カップと賞金を持って会いに行く」と、約束した。
三国志のヒーローと同じ名を持つ30歳は「来週も、この勢いで行っちゃおうかな!?」。
孔明よろしく、早くも次の天下取りをにらんだ。