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山下和宏がゴルフ伝道師に
京都市内から京滋バイパスを抜けて、約30分ほどの山あいにある。児童数はわずか23人のアットホームな小学校は、しかしそのうち約半数が、山下とはすでに顔見知り。
約半年ぶりの再会だ。
最初の出会いは昨年9月。「アジアパシフィック パナソニックオープン」は、小学校から高速道路を利用して、15分ほどの城陽カントリー倶楽部が舞台だった。
江口勝彦・校長先生は、この千載一遇のチャンスを逃さなかった。同校にゴルフ部が創立されて6年目。学校近くの京都国際カントリー倶楽部で毎月1回のクラブ活動を重ねている子供たちにとって、トッププロと触れあう機会はめったにあるものではない。
「何より生きた教材を見せていただける」と、思いついたあとの江口先生の行動は早かった。
さっそく大会側に掛け合った。主催者の歓待を受けて、本戦2日目の金曜日に5、6年生の計9人を連れて“課外授業”にやってきた。
もっとも当初は、観戦中にプロとの触れ合いの時間が持てるかは微妙だった。練習場でタイミングが合えば、ということだったがそれも、どの選手になるかは未定だった。
子供たちと打席場の真後ろに陣取って、プロの迫力あるスイングを息を殺して見つめていた。
何人か練習していた中で、ショット中にもそんな子供たちに気さくに声をかけ、そのあとの質問コーナーにも快く応じてくれたのが、山下だった。
江口先生もおっしゃったように、「運命の出会い」だった。
「でもそれが僕だったってこと、きっとみんなは覚えてないんじゃないでしょうか」と校長室で山下は苦笑したが、複式学級の5、6年生担任、小槌晶乃先生は「とんでもない。“あの山下プロとまた会える”って。みんなそれはもう、早くから舞い上がってしまって・・・・・・!!」。
「ゴルフ伝道の授業」は“1時間目”がスナッグゴルフの実技講習会。
たいてい訪問校では最初はどうしても、どことなくぎこちない空気が漂う。プロも子供も少なからず、初対面に緊張しているからだ。
しかしそんな背景もあったから今回は、開始直後からみんなノリノリ。
しかも“講習会”の会場は、学校に隣接する市の野外活動センター「アクトパル」の芝生広場だ。さらに頭上には澄んだ青空。まるで春が訪れたようなポカポカ陽気と、もうそれだけでもゴルフには絶好のロケーション。
のどかな向かいの山に、子供たちの声がひっきりなしにこだました。
そしてひととおり基礎練習を終えたあと、興奮は最高潮に達した。
1年生から6年生の縦割り生活4班に分かれていよいよ実戦ラウンドで対戦することになったのだ。
6年生の山際香琳(やまぎわかりん)さんがリーダーをつとめる組は、他よりメンバーが1人足りなかった。その穴埋めに、山下がメンバーに入ることが決まった。
その瞬間に飛び交った歓声と、他チームから沸き起こったブーイング。
そりゃ当然だ。誰だって、プロとチームを組みたいに決まっている。
何よりの“特権”を得た山際さんチームは、ますます水を得た魚だった。
「今まではあまり上手に出来なかったけど、プロに正しく教わったらもっと頑張ろうという気になってきた」と、リーダーの山際さんはがぜんやる気に。
5年生の山本祐大くんも、「プロと一緒にプレーが出来るなんて、めっちゃ嬉しい」と、大張り切りだった。
2ホール目に豪打を披露。みごと“ワンオン”に成功し、プロの称賛を浴びた4年生の石田一真くん。3ホールのチーム合計「16ストローク」は優勝こそ逃したが、ゲーム終了の笛が鳴るなり感極まったように吐き出した。
「あぁ・・・。今日は本当に楽しかったぁ!」。
その声に、思わず山下も笑顔になった。
石田くんの頭を撫でながら、「本当に?! そう言ってくれるなら、なおさら今日ここに来た甲斐があったよ!」。
講習会の最後には、その思いがますます強まった。
この日の感想を発表し合う場面で次々と手が上がる。先生の指導で普段から、人前で発表する習慣がついている子供たちは、しっかりと自分の意見が言える。
「私は今まであまりボールが飛ばなかったんだけど今日、山下選手に教わって、たくさん飛ぶようになりました」と、5年生の久世谷香穂さん。
6年生の出石姫夏さんは、「いつものクラブ活動はただ一人でプレーをしている感じなんだけど、今日はみんなで一致団結という感じでやれたのが凄く楽しかった」とゴルフの新たな魅力も発見して、「ゴルフはちょっと苦手だったけど、山下プロに教わったら好きになれそうな気がしてきました・・・・・・!」。
嬉しい言葉の数々に、今回はプロとチームを組めなかった子も充実の時間を過ごしてくれたことが、山下にも伝わってきた。同時に、ゴルフに目覚めた自分の中学時代がよみがえってきた。
「みんなの姿を見ていたら、あのころの新鮮な気持ちを思い出しました。今シーズンは、ずっとこんな気持ちでゴルフがやれたら」。
子供たちの純心に触発されて、シード2年目の2010年は初心に返って挑めそうだ。
※このあと旅は、山梨県・山梨市立三富小学校(25日、藤田寛之)、広島県・竹原市立吉名小学校(26日、兼本貴司)と続きます。乞うご期待・・・!!