今年はサンタ2人で里帰りだ。44歳と23歳。ベテランサンタと新人サンタは手と手を取り合い、帰郷した。愛してやまない地元・奈良県の子供たちに、夢と希望を届けに行った。この日の奈良は氷点下の冷え込みに、極寒のレッスン会が終わる頃には2人とも、まさに真っ赤なお鼻になっていた。
もはや谷口徹にとっては年末の恒例行事である。今年も12月26日に、天理市のナパラゴルフクラブ一本松コースで行われた奈良県ゴルフ協会主催の「冬期ジュニアゴルフスクール」。
女子プロで、同県の高等学校ゴルフ連盟顧問の杉本真美さんに「地元出身のトッププロとして、ぜひ特別講師に」との依頼をふたつ返事で引き受けて以来、今年で早7年目を迎えるが、ここ数年は谷口にもひそかなジレンマがあったのだ。
40歳を超えたあたりから思っていた。「講師が俺だけというのはあまりにも、子供たちと年が離れすぎて目標が設定しづらいのでは?」。生徒の多くは将来、自分もプロゴルファーにとの夢を抱いているが、40歳もまもなく後半にさしかかろうかという自分ひとりが相手では、子供たちもその夢を描きにくいのではないか・・・。
そんな懸念があったが今年は、申し分のない“後継者”を見つけた。
「僕の23歳のときを思い返しても、破格にすごい新人です。プロ1年目でこれほどの成績を残した選手はマルちゃんか、遼くんか・・・。勇太でも、確か1年目はこれほどではなかったと思う」と谷口が、子供たちに自信を持って紹介したのは、同じ奈良県出身の藤本佳則。
今年、デビューするなり破竹の勢い。参戦5試合目の「日本ゴルフツアー選手権 Citibank Cup Shishido Hills」でツアー初優勝を飾ると、賞金ランキングは5位でルーキーイヤーを飾った。身長165センチは、「僕よりも小さな体で、僕よりうんと飛ばすんです」と、そこは悔しそうに「後輩のくせに、一緒に回っても僕にぜんぜん遠慮してくれないんですよ」と、笑った。
「みんなとも年齢が近いので、すばらしいお手本になってくれると思って呼んできました」。
スクールは開講直後の講演会「奈良っ子たちに伝えたいこと」で、マイクを握った谷口はそんなふうに開口一番。思いがけず先輩にべた褒めされて、さすがの後輩もひそかに目を剥く。
「今日はきっと谷口さんにいじられて、けなされ倒して僕はへコんで帰るんだろう、そう思っていましたので」。
藤本が、谷口からこのジュニアスクール参加の打診を受けたのは、今月9日に行われた女子とシニアと男子の対抗戦「Hitachi 3Tours Championship(日立3ツアーズ選手権)」だった。
新人ながら、谷口とともに我らがJGTOの代表メンバーに選ばれた藤本だが、こう見えても大先輩への礼儀はわきまえている。「谷口さんに言われたら絶対にノーとは言えない」と、快諾をしたのだが、いざレッスン会の前の講演会ではその谷口が司会進行をつとめると聞いて、ちょっぴり不安にかられていたのだ。
特に後輩への辛辣なコメントが、いつも話題になる谷口だ。「僕も相当やられそう」と、覚悟をして来たのだが、良い意味で当てが外れた。
むしろ先輩のほめ言葉の数々が、こそばくて仕方ない。
まして、谷口と2人で渾身のレッスン会を終えて、子供たちと揃って美味しいカレーを頬張り、代表のジュニアから胸にジン・・・と響くお礼の手紙と、お花のアレンジメントを受け取ったあと、会の終わりに2人で順番にマイクを持ったときだった。
「今年、僕はなんとか藤本くんに賞金ランキングで勝てましたけど、来年は危ない。藤本くんは、間違いなく今後のゴルフ界をしょって立つ選手ですから」とは、またまた谷口。
これには藤本も恐縮しきりで「谷口さんに褒めてもらえるなんて、なかなかないです!」。
もっとも、このベテランの言うことを、額面どおりに受け取ってはならない。
「こんなことを言ってても、谷口さんは絶対に来年もまた上に来ますから」。
この日の出会った子供たちも、「テレビで見て奇跡だと思った」と言った。今年は10月のブリヂストンオープンで、最終18番の3打目を直接カップに放り込む劇的Vなど、この1年で藤本も、谷口の怖さを嫌というほど見てきたから分かる。
「谷口さんは黙っていてもまた上に来る」と藤本に見透かされれば谷口も、「もちろん、まだまだ若手に負けようとは思わない」と、とうとう本性を現した。
期待の新人にもいつものように、容赦なくハッパをかけた。
「今年は良かったけれど、藤本くんが真価を問われるのは来年。なんだかんだいっても強くなければ見向きもされないのがこの世界。今年の経験を踏まえて来年はもっと上に行かないと、今年の成績も意味がない」と谷口に諭されて、神妙にうなずく。
「来年こそ目標の年間2勝を挙げます」と、改めて誓った。
「今日はここに来て、みんなが楽しくゴルフをする姿を見て、逆に僕が元気とパワーをもらえた」と、地元の子供たちとふれあう貴重な機会を与えてくれた谷口にも感謝しきりで、「来年もまた谷口さんに、こういう場に呼んでいただけるように頑張りたいと思います」。
新人サンタもまけじと2年目のシーズンに向けて、さっそく思いを新たにしていた。