普段は後輩に歯に衣着せぬもの言いも、愛のムチ。相手の将来を思って、いつもは超・辛口の先輩も、奥に隠した思いやりは人一倍だ。もはや、イブの恒例行事となっている。24日に天理市のナパラゴルフクラブ一本松コースで行われる奈良県ゴルフ協会主催の「冬期ジュニアゴルフスクール」に谷口が“相棒”を連れて出かけるようになったのは、昨年から。

同じ県下の藤本佳則は、同スクールが誇る“１期生”でもあり、今や名実ともに“後継者”としても「申し分なし」と判断して白羽の矢を立てた谷口だったが今年は２年連続のオファーを取りやめたのは、ほかでもない。
まだ24歳ながら来月18日に、結婚式を挙げると聞いて驚いた。自身が亜紀さんと結婚したのは37歳だったことを思い返しても、「おまえ早いなあ･･･！」とその点では冷やかし半分も、さすがに挙式直前のクリスマスに後輩を連れ出すのは気が引けた。「カノジョに悪いし」と心優しい先輩が、次に目星をつけたのは大阪在住のツアーで一番小さなプロだった。

11月の三井住友ＶＩＳＡ太平洋マスターズの会場で「イブの日に悪いんやけど･･･」と谷口に切り出されたのは上平栄道（うえひらまさみち）。珍しく（？！）改まった口調に、最初は何事かと思ったそうだ。「いや実は奈良の子どもたちにゴルフを教えて欲しいねん。そう頼まれまして」と、しかしその夜は上平家でも、一大行事が控えていた。

２歳になる瑛翔（えいと）くんのために“栄道パパ”が、サンタに扮する。「去年は、なんか怖いオッチャンが来た〜みたいに大泣きされましたけど」。物心ついた今では「今年も来るかな」。愛息も楽しみにしているだけに、絶対に破れない約束も「レッスン会は夜までかかるわけじゃない。もちろん、行きますよ」と快諾した。息子の分は、ひとまず押入れに隠して谷口とともに、県下のジュニアにプレゼントを届けにやってきた。常連プロの45歳に加えて、今年は36歳の“サンタ”の参上が図らずも、子どもたちには何より励みとなるイブになった。

ジュニアといえどもすでに身長185センチを超す子もいる。反して158センチの上平は、60人もの子どもたちに取り囲まれると、あっという間に埋もれてしまうがそれも谷口が仕込んだ作戦のうちだった?! そんな小さな体で４年連続のシード権を守り続けていることが、上平の誇り。たとえ相手がジュニアであっても特に、自分より大きな子には「絶対に負けたくない」とは、プロのプライド。最初の講義も、後半の実技講習会でも“小さな巨人”の熱血指導に「上平プロは、身長158センチでシード選手として活躍していて凄い」とは、ジュニアを代表してお手紙を読んでくれた大和郡山市立片桐小の田中裕基くん。
「僕も、５年生にしては身長が低いほうで距離が少なく、苦労している」という田中くん。「でも、上平プロの活躍にはいつも勇気をもらっています」と言われれば、なおさら谷口の誘いに応じた甲斐はあった。

そして谷口は45歳。実は、“講師陣”の世代交代の意味でも「このジュニアスクールも、僕はそろそろ引退したほうが」とのひそかな懸念もあったが田中くんに、「また来年も、僕たち奈良県ジュニアの成長した姿を見に来てください」と言われれば、考え直さずにはいられない。
「僕も将来、強いプロになって谷口プロ、上平プロと一緒にラウンドしたい」という田中くん。「その日を目指して頑張りたいと思うので、谷口プロも上平プロも現役選手を続けて待っていてください」と頼まれれば、思わずベテランの目尻も下がる。

谷口が講師として参加するようになって、８年目になる同スクールも創設は、今年11年目にして“卒業生”の中からまた２人の“スター候補生”が誕生したことも励みだ。スクール１期生の森井晶紀と、木下稜介が、今月に行われたファイナルＱＴを突破。来季のシード入りを目指して羽ばたく。

森井はランク90位で来季まずはチャレンジトーナメントを主戦場に戦うことになるが、03年と08年のチャンレジ“賞金王”の上平が何よりのお手本だ。「とにかく早く、ツアーに出られるように頑張る」と、同い年の“同窓生”の藤本の背中も追いかけていく。「谷口さんを見ていると、プロはあれくらい突き抜けた個性を持たないと、通用しないんだなとつくづくと思う。僕も谷口さんのように、我が道を行く」と、地元が生んだスターの背中も一心に追いかけていく。

また、こちらは松山英樹と同い年の新人プロだ。木下は、地元奈良県は北葛城郡の河合第二中から進んだ香川西高校で当時、高知の明徳義塾高にいた松山と出会った。「当時から、ずば抜けて上手いヤツだったけど、それでも今年の活躍はありえない」と今年、史上初の“ルーキーキング”に輝いた親友の活躍にはさすがに度肝を抜かれた。と、同時に「ちょっと悔しい･･･」と対抗心もひそかにメラメラと「先陣を切った英樹に自分も続く。道を作ってくれた英樹を励みに、自分も頑張る」と、来季はファイナルＱＴランク３位から初シード入りを狙う木下もやはり、地元の大先輩の存在が励みだ。
過去２度の賞金王は“奈良っ子”たちの憧れだ。「僕も、谷口さんに追いつきたい」とこの日は木下も、スクールの開校時間の直前に「参考に聞かせて欲しい」と谷口に、このオフの過ごし方など、質問をぶつけていたように、“後継者候補”が後を絶たないとあらば、自身も奈良出身のトッププロとして、まだまだ先頭切って走り続けなければならないと、谷口も思いを新たにしたクリスマス・イブになった。

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