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〜全英への道〜ミズノオープン 2012

山下和宏は「ゴルフ人生で一番」

前日2日目を終えて、通算2アンダーの28位タイに、同組で回った矢野東が首をかしげた。「もったいない。山下さんのゴルフなら、すでに10アンダーは行っている」。

確かに、本人も自覚していた。「ショットはゴルフ人生で、一番良い」。
打てば寄る。チャンスにつく。

「他社さんで、申し訳ないですけれど・・・」と、大会の主催者を気遣いつつ「今のクラブはスリクソン史上、最高の出来ですから」。
3月は、まだオフの間にオーダーしていた待望のクラブが届いたのは、3週前だった。メーカーのスタッフの「まだ世界で1セットしかありませんから」との言葉が山下の気持ちをあおった。
出来上がってきたばかりの試作品を、手に取るなり気に入った。
「僕とクラブの力関係で、僕が優位に立ったという感じ」。
まず、打感がいい。第二に楽に球が上げられる。思ったとおりのショットが打てる。
「おかげでスイングも良くなった」と、二重、三重の効果と喜びがあった。

それだけに、予選ラウンドの伸び悩みが悔しかった。
「まさに、あとはパット次第のゴルフだった」と、やはり3日目もグリーン上で悩みを抱えたまま出ていったが、終盤は15番でようやく「これだ」とつかむものがあった。

5メートルのバーディを決めたときだ。
「構えたときの目線を少し変えたら今まで引っかけて、引っかけて、引っかけ倒したパットがやっとまっすぐに転がってくれた」。それから最終ホールまで4連続バーディで65をマークした。
「矢野くんに、やっと入ったよと言えますね」と微笑んだ。

首位とはわずか2打差で迎える最終日。念願のツアー初優勝と、もうひとつ全英オープンの出場権もかかるが、気持ちは複雑だ。実現すれば、初のメジャー戦に、よぎるのは不安だけしかない。
「行ってあそこで自分がどうなっちゃうのか。メジャー症候群じゃないけれど、行って調子を崩してしまう選手も多いでしょう。少し怖い」と、少々弱気だ。

しかし、今なら絶大の信頼を置くクラブがある。「実は低いのも打てるんですよ」と、少し表情が緩んだ。ニンマリした。新しく手に入れたのは、高弾道ばかりかリンクスコースに見合った低弾道も、自在に打ち分けられる宝刀だ。
「自分もそれなりに色々経験してきたし、ゴルフ人生で一度は行っても大丈夫かな」と、やっと少し前向きに、「いやいや、でもそれは、決まってから考えればいいこと」。
ひとまず雑念を振り払い、勝負に徹する。

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