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長嶋茂雄INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント 2015

岩田寛がツアー通算2勝目!

勝ってヒロシは叱られた。そんな選手は前代未聞。表彰式後のフェアウェルパーティで、錚々たる重鎮が、ヒロシを囲んだ。青木功に丸山茂樹。一時代を築いた先輩たちには、許せない。「なんで、賞金王を目指すと言えないのか」。優勝スピーチも、もう2度目というのに相変わらずモジモジと、プロ11年目の34歳が、デビューしたての新人みたい。「優勝パットよりも緊張するんで・・・」。胸一杯の感謝の気持ちすら、上手く言えずに「でも本当に感謝している。みなさんにも伝わると、いいのですが」と、しおらしく胸に手を置き言ってはみたが、先輩のダメ出しは収まらなかった。

長嶋茂雄・名誉会長から受けた優勝トロフィ。表彰式の一番の見せ場で、ほとんど背中しか見せなかったヒロシ。「トロフィは、頂いたらすぐにギャラリーにもお見せするもんだ」とまた叱られて、そういうものかと反省しきり。ほかにも、ウィニングパットは最後に打って盛り上げるもの。それがなぜ「お先に」なのか。今平より先に打つなど優勝シーンのお作法を、ことごとく逸脱したヒロシはなぜ最後にガッツポーズもしなかったのか。この点だけは言い訳したい。
「一緒に戦った今平選手に失礼だと思ったから」。
大混戦の最終日も最後まで岩田と競り合ったのが22歳の今平だった。同じ組で回るのは初めてだったが、「練習場でいい球打つといつも見ていた」。ヒロシの見立て通りに好ゲームを仕掛けてきた今平。ヒロシが短いチャンスを外した16番。5メートルを沈めて1打差に詰められた。

でもすぐに、突き放した。「17番が分かれ目だった」。フェアウェイから157ヤードの2打目を8Iで1.5メートル。「先に打った今平選手が8Iでショートした。あれを見ていなかったら自分は9Iで打っていた」。敵を見て、とっさの判断が2度目の勝利を呼び込んだ。
2打差で迎えた最後の18番は「90%パーでいい」。もはや決着がついたも同然のパー5も「ほっとしたら負けると思ってやった。ロングでパーでいいっていう難しさ。攻めたほうが楽。前に行くだけだから。その場にじっと立っているのは難しかった」とまたひとつ大人のヒロシがそこにいた。「勉強になりました」と一皮むける逆転Vは、今平と別の組なら堂々と拳を突き上げてみせたかも。しかしそれはヒロシの信念に反する。「彼の目の前でガッツポーズは出来なかった。お互いに称え合いたかった」と、相手への配慮も実はヒロシのジレンマ。そんな自分が、じれったくなることはある。

大学の後輩に気圧されたのは昨年のダンロップフェニックス。共にプレーオフに挑んだ松山英樹の気迫は凄まじかった。「勝負師の顔。見習いたいと思った」。以前、セベ・バレステロスの名言を雑誌で読んだことがある。「相手の喉元を噛みちぎるつもりでやっている」と。あの遺言を彷彿とさせる松山のプレーに「確かに、勝負はある意味殺し合い。でも僕には噛みちぎるまでは出来ません」と後輩の迫力には及ばずとも「今日は17番で、少しそんな気持ちを出すことが出来たかな」。

一見、愛想のないファンサービスも実はすごく気を遣っている。今週はザ・ノースの苦手なグリーンにも「イライラしない」と心に決めて、ボギーを打っても平常心。「ありがとう、とか。そういうときはやりがちだけど、ファンの前を素通りしない」。これでも笑顔を振りまいている(つもり)。目指しているのは「爽やかな選手」。そのためにも「感情で色々しないよう」。ミスしてすぐにキレていた。刻むホールでやけになり、本能のままドライバーを持ったりも今はない。「今日は僕の中では爽やかに出来た」。ツアー通算2目は、ヒロシなりに成長していた。

11番は2.5メートルのバーディで、ヒロシがついに単独首位に踊り出たその瞬間。ゴルフ中継直前のHBC系列のワイドショーでちょうど流れた。北陸の小学校で、給食の牛乳をやめたというニュース。字幕に「ご飯に牛乳は合わない」。今年4月に訪れた。福島県の小学校で、ヒロシもまったくおんなじ台詞を言った。校庭を出る間際に、何度も真顔で首をかしげて校長先生を恐縮させた。この日は報道陣相手の記者会見で、第一声が「お腹がすいた」。この日も不思議ワールド全開V。

そんなヒロシが賞金ランクで1位に浮上。「賞金王って・・・凄いですよね? 自分がそのレベルとはまだ思えない」と青木の叱責にもそこは頑として譲らなくても、秘めた思いは人一倍だ。米ツアーの出場権を狙って挑んだ昨年のWGC・HSBCチャンピオンズは3位に終わって「勝てた試合。3日眠れないほど悔しかった」。悔いが残った。「絶対次に活かす」と誓った。今年もまた必ず米ツアーに挑戦しようと「ゴルフの底上げ」に励む日々。昨年のフジサンケイクラシックでの初Vのあとから更新は、途絶えたままだがブログのタイトルも「ワールドクラス」。こう見えて、ひょうひょうと世界を見据えるヒロシは、来年のリオ五輪も資格の対象となる世界ランクも「上げられるだけ上げていきたい」と、そんなヒロシをマルちゃんも、叱ってばかりじゃなかった。

「いいスイングをすると、丸山さんに言われて。自分のスイングは好きじゃないけれど。自信を持ってもいいのかなって」。この日は賞という賞を独占して「完全な勝利には、脱帽するしかありません」とはミスターだ。もっともアグレッシブな選手に贈られる長嶋茂雄賞も、4日間平均297.50ヤードで堂々1位のドライビングディスタンスも、特別賞だけでも一体幾ら稼いだのやら。白熱の中盤にコースに駆けつけ声援を送ってくださったミスター。「天才。ああいう方は、これからもちょっといない」と恐縮しきりのヒロシは「緊張するから、長嶋さんのほうを見ないようにしてました」と、シャイな元野球少年にはなおさら憧れの人からの賛辞が心に響く。
「岩田選手といえば世界規格のプレーが魅力。今回の優勝で改めて、いっそう羽ばたいてもらえることを期待しています」。2013年に国民栄誉賞を受けられた。偉人からの賞賛とエールは、さすがのヒロシもここは素直に聞いておく。
  • あらら・・・ウィニングパットを今平より先に決めちゃった。
  • ぺこりと帽子を取って頭を下げただけで・・・
  • 専属キャディの新岡隆三郎さんとうつむき加減で小さく握手
  • ミスターからトロフィを受け取ってもギャラリーに向き直らずに、すごすごと引っ込んじゃった。失態(?!)の数々に「丸山さんに叱られました・・・」

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