51歳のベテランが、主催者を初体験した。7月30日に出身の奈良県・春日台カントリークラブで行ったのは、自身初の冠大会「谷口徹ロートジュニアカップ2019」。
主催者の朝は早い。この日は4時半起き。6時前には、大阪市内の自宅を出た。7時20分から準備万端のぞんだ始球式は、しかしちょっぴり地味になってしまった。朝イチのナイスショットを意識しすぎて、ヘッドスピードが速すぎたらしい。そのためボール内に仕込まれたキラキラテープが上手く飛び出さなかったのは、誤算だったがこの日最初の大役はやりとげた。
朝からすでに炎天下のスタートティに立って、各組毎に記念撮影。
「頑張って!」。
一人ずつに声をかけ、若い背中を見送った。
「みんな朝のティショットでも、柔らかく体を使えていて羨ましいくらい!」。
この夏のオフは、例年どおりに完全休養を決め込みラウンドも、まだ1回しか行っていないという自身をちょっぴり反省。
「みんなの若さをもらって僕も頑張る」。
8月第3週の「セガサミーカップ(北海道 ザ・ノースカントリーゴルフクラブ)」から再開するシーズン後半への士気を高めるにも十分の夏の1日となった。
谷口が、この冠大会を持つことが決まったのは昨年末だ。
LPGAプロフェッショナル会員の土井二美プロが、「奈良の子たちにプロの試合に出るチャンスを作ってあげたい」と2013年に、大阪府に本社を持つ「ロート製薬」のサポートを受けて、起ち上げた今大会だったが資金繰りには毎年苦慮していて…、という話は毎12月に、谷口が特別講師として参加している出身の奈良でのジュニアスクールの席で聞いた。
「確かにジュニアの子たちがプロの試合に出られる機会はそうない。自分もその一助になれれば」。
開催7回目の今年は運営費を自分のポケットマネーでまかなうことをその場で申し出たばかりか大会当日には自分も会場に出向き、子どもたちと一緒の時を過ごすことを約束していた。
早朝から主催者の務めを果たすと午後から成績集計を待つ間は順次、ホールアウトしてきた子たちと、レッスン会や、アプローチ合戦に興じた。
プロ相手に本気でかかってくる子たちに、「3週間くらい、芝の上から打ってないのに!」。”ブランク”に悲鳴をあげながらも大奮闘。
『高校女子の部』がかたわらで繰り広げた2選手によるプレーオフにもつれ込む、し烈な争いにも負けない熱い時間を、子どもたちに提供しようと猛暑の中で頑張った。
今大会では男子の部の総合優勝と、準優勝者には11月の男子ツアー「マイナビABCチャンピオンシップ(兵庫県・ABCゴルフ倶楽部)」の本戦切符をかけた予選会・マンデートーナメントの出場権が与えられる。
表彰式では主催者として、賞状やトロフィーを手渡すプレゼンターをつとめて、「ABCゴルフ倶楽部のグリーンはとても速いのですが、そういうのも良い経験になると思う。ぜひ、予選会を突破できるように頑張って」と、挑戦者2人にエールを贈った。
この日は68という見事なスコアで権利を勝ち取った真鍋和馬さん(近大付属高2年)。
「本戦に出られるよう、精一杯頑張ります!」。
今大会の出身者から、まだマンデー突破者は出ていないそうだが、真鍋さんに次ぐ2位で、挑戦権を得た玉木海凪さん(滝川第二高2年)も、「ぜひ自分がその第一号になれるよう頑張る」と、張り切った。
今朝は子どもたちのスタートを、間近で見せてもらいながらも谷口が、ひそかに気にかけていたのは「自分にそばで見ていられることが、みんなのプレッシャーにならないか」ということ。
そんな心遣いから、午後は目立たない場所からの観戦にとどめたが「今日、みんなのプレーを見せてもらって思ったのは、僕のジュニア時代よりもみんなうんと上手いということ!」。
ジュニア期を含めてアマ時代にこそ目立った成績はなかった谷口だが、92年のプロ入り後に重ねた勝ち星は「20」。
昨季の日本プロでは、史上最年長の大会3勝目を飾り、20代の選手がひしめくレギュラーツアーで今も若手の壁である。
「みんなも練習と努力を継続していけば、必ず上手くなります。来年はさらに練習の成果が出せるよう、頑張ってくださいね」。
初の主催試合でベテランが、自ら生きた手本を示してみせた。