Tournament article
ブリヂストンオープンゴルフトーナメント 2012
谷口徹が連覇を達成、大会は3勝目、賞金ランキングは2位浮上
藤田と、1打差の2位で迎えた18番。パー5の3打目は、ラフから52度のウェッジも「逆光で、どこに行ったかも分からない」。まぶしさに、目を凝らしても見えない。
最初の歓声で「そこそこ寄った」と、安堵する間もなく大声で「入った!!」とは、同組のすし石垣。たちまち地鳴りの大歓声が、確かにそうだと告げていた。
すしは見ていた。グリーンサイドの大ビジョン。ピン手前3メートルに落ちたボールはトン、トントントン…と4回ほど軽く弾んで最後にスーッ…っとカップの中へ。谷口も弾んだ。まるで子供のように、芝生を飛び跳ねること5回。さらに109ヤード向こうのグリーンに向かって一目散。無邪気な猛ダッシュは、あとで「すしのせいだ」と、言い張った。だって、そうでなければ「イメージダウン」。自分では、硬派で通っているつもりだからだ。
石井恵可キャディと狂喜乱舞のハイタッチ。そのあとに「次はお前と」と駆け寄ったのに、なぜかスタコラサッサと逃げ出したすし。「ほっといたらすしがバカに見えるでしょう。かわいそうだから、俺も一緒に走ってあげた」と、強がりの追いかけっこは、しかしグリーンの手前でやっと追いつき、後悔しきりだ。
逆転の通算12アンダーも、うしろの藤田が18番でバーディならばプレーオフ。「彼なら絶対、獲ってくる」。2週前に、同じ組で回って驚異を覚えたばかりだ。「普通なら、ボギーのピンチもよそ見してたらバーディチャンス。最後にコロンと入れてくる。彼に油断は絶対禁物」。
手強い相手と分かっているのに全力疾走でゼーゼーゼー。「心拍数が上がった。クールダウンだ、フー、フー、フー」。必死の深呼吸で息を沈めた。「プレーオフのティショットでチーピンでも打ったらすしのせい」と、ここでも責任をなすりつけようという算段も、けっきょく藤田がパーに終わってお蔵入りした。
その藤田に約束したのはこの日の朝。スタート前に「今日はビッケ(藤田の愛称)とプレーオフ」。3番で連続バーディにさっそく藤田を捕まえた。12番で8メートルのバーディトライ。これをねじ込み2打差の首位に「行ける」と確信。その途端に躓いた。
13番はバンカーから寄せきれない。14番ではグリーンをオーバー。いずれも長いパーパットを逃して「これはまずい」と、青ざめた。再び藤田のリードを許して、火がついた。
「こっから死にものぐるいで攻めていく」。残るパー5は16番と18番。「死んでもバーディ獲っていく」。17番では3メートルのパーパットで、だからなおさらガッツポーズに気持ちがこもった。
これまでの18勝は、常に緻密な計算の上。「1打差で逃げ切るゴルフを心がけてきた」。だが今回ばかりは最後の最後に本人すら予測もつかない驚きの展開に「19勝の中で、一番奇跡に近い優勝」と、認めた。「やり方がスマートじゃない! あんなの、普通入れますかね?!」と思わず責めた藤田にも、素直に「ごめんね」と謝った。
今大会は2日目から、主催者の目もはばからずに公言していた。「最終日はヤマハのワン、ツーフィニッシュ」。今の若手も「100%を出さないと勝てない」と、谷口に思わせるのは韓国勢ばかりで、「日本の若手は本気度が足りない」。他の誰でも負ける気はしない。
しかし、いまの藤田は別格だ。同じヤマハの契約プロは、40歳の声を聞くなり立ちはだかった。昨年も、一昨年の最終戦でも、再三の一騎打ちにも敗れて、通算勝ち星こそまだ自分が上でもいまは、自分が負け越しているような気さえする。だからこそ、なお燃える。
「僕たちは、互いに生かされていると思う」と、谷口は言う。「一人がダメなら、もう一人もダメになっていくような…」。逆にもう一人が頑張っているから、自分も頑張る。
この夏には、こんな約束も交わした。「今年は最後まで、2人で賞金王争い」。だが、前日3日目にも「一緒に最終組で回ろう」と、言った自分が破ったように、「藤田が頑張っているのに、僕はダメで」。藤田は9月に今季3勝目も、指をくわえて見ているしかなかった。
「公言したわりには大したことない自分。惨めだった。このままでは終われない」と、巻き返しを誓った。
「今週は勝ちたいと思った。それがノルマだと思った。ダメだったら、僕の今シーズンは今週で終わり」とまで覚悟を決めて挑んだ大会連覇だ。「一番得意なコースのひとつ」という袖ヶ浦でいま、もっとも谷口を奮い立たせる相手の今季4勝目を封じた。
これで約束を果たすめどもついた。賞金ランキングで藤田に、約2700万円差に迫る2位浮上。「クライマックスシリーズじゃないけれど。僕のシーズンは終わっていない」と、がぜんチャンスを得て今年もまだまだ走り続ける。藤田とともに、最後までシーズンを引っ張り続ける。2人の40代が賞金レースを面白くする。
そして、いよいよ最後に笑うのは誰?
「それはもちろん僕でしょう」。年の終わりにこそ自身3度目の賞金王で、藤田を封じる気で満々だ。