Tournament article
ダイヤモンドカップゴルフ 2013
山下和宏の「元気の源」は
その日は、同じ県内の大利根カントリークラブで行われた全米オープンの最終予選。山下も、36ホールの長丁場に挑んだのだが、そのスタート直前に入った一報に、興奮しきりで出ていった。
「井戸木さんが、今までどれだけ頑張ってきたか」。同じ関西出身の後輩プロとして、いつもひそかに感銘を受けてきた。飛ばないけれど、正確無比なショットでしぶとく食らいついていく。過去5度のフェアウェイキープ率1位のゴルフを山下も、ひそかに自らのお手本にしてきた。
ちょうど昨年のこの大会から、26試合連続の予選通過記録を続けている要因でもある。昨年はこの翌週の地区オープンで、井戸木がお弟子さんと、コテコテの関西弁で、こんな談笑をしているのを盗み聞きした。
「アニキ!! ゴルフは“肩から肩”でっか!?」。非常に感覚的な表現だが、山下の琴線に触れたのだ。左右対称の動きで確実に、球をとらえて真っ直ぐに飛ばすその極意。目の前が開けた気がした。山下の“記録更新”も、これを契機に始まった。
今も、調子が良くなくなると、井戸木の言葉を思い出す。
まだ山下がシード権すら持たなかったころ。井戸木は雲の上の人だった。「気軽に話しかけることも出来ずに」。だが井戸木は、50歳の誕生日をきっかけに、戦いの場をシニアの舞台に移して、「今は少し違うステージに行かれた」という感覚で、このオフはたまたま同席したプロアマコンペの前夜祭で、お酒を飲みながら3時間。心ゆくまで、夢のゴルフ談義を交わすことが出来たのだ。
そこでお手本にしていることを明かした上で、改めて問うてみた。
「井戸木さん、ゴルフは“肩から肩”ですね!?」。
「いいや山下、お前はまだまだ甘い。ゴルフは“足から足”や!」とたたみかけられ、ありがたいやら嬉しいやら。
先の日本プロではショットの好調を良いことに、「意気込み過ぎた」と初日に79を打った。予選通過記録もこれで終わりかと思われたが、ここでもやっぱり、井戸木の言葉を思い出し、2日目には執念の67。
そして最終日には19位タイ。初日の123位から、みごとに息を吹き返して帰ってきた。
それだけに、恩人の快挙には感動しないわけがない。
「井戸木さんの優勝は、元気の源」。自分のスタイルを信じて、頑張って続けていれば、いつか必ず報われるときがくる。井戸木が身をもって、教えてくれた。「それをひしひしと感じられた月曜日の朝でした」。あの感動を、この日はボギーなしの69へと結びつけることが出来た。
「今日はショットが悪くて木に当てたのが1回。当たりそうになったのが、2回」。そんなピンチも、「パットが一人歩きをしてくれたかなという感じで」。特別に凄いゴルフができたという実感はない。「でも、なんかよう知らんけど、3アンダーで回ってこれたぞというような・・・」。そういうゴルフこそが、自分のスタイルなのかもしれない。
「あまり意気込み過ぎずにね。いろんなやり方があって、自分は自分のスタイルを確立出来たらいい。井戸木さんみたいにね」。そして近いうちに、恩人にも今度はこちらから、初優勝の報告が出来ればいい。