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東建ホームメイトカップ 2015
出社拒否寸前!? 山下和宏がV争い
この日は“完全克服”も間近の66をマーク。11番のボギーで一度は躓きながら、次の12番からやにわに息を吹き返してきた。それまではショットで体が起き上がる傾向も、残り110ヤードの2打目は「自分の狙ったとおり、思ったとおりに打つことが出来た」と、ウェッジで1メートルにつけると、ふいにひらめいた強い手応え。
「あ、これは次につながる」と13番では、手前8メートルのバーディトライも難なく沈め、さらに14番ではピンそば40センチだ。135ヤードの2打目を9番アイアンで打った瞬間に、「これはいけるかも、と思えた」。15番では1.5メートルを沈めて4連続バーディを築くとますます気持ちも前向きに。
17番の3打目はカラーから、一度は安全にパターを握るもピッチングに持ち変える勇気も出せた。振り返って前半の7番では奥からのアプローチで、ユーティリティアイアンで打とうか・・・。
「いや、ここで逃げたらこの世界では生き残っていけない。良いときに、少しでも成功体験を積み重ねていかないといけない」。サンドウェッジで、きっちりとパーを拾えた。
長かったオフを経て、いよいよ開けた2015年。「出たくない・・・」。最悪の気分で、山下のシーズンは開けた。昨年からパットの不振とアプローチのイップスの症状が深刻さをきわめて、「ウツになるんじゃないかと思うくらいに」。練習ラウンドではいくらでも動く手が、いざ本番で動かない。「手が降りてこない。降りてこないから、降ろそうとして、ガーンと行っちゃう。目も当てられない」。
重い気持ちを引きずって多度に来た。藁にもすがる思いで、解決策を集めて歩いた。「いろんな選手に打ち方を教わった」。応急処置として、パットはビリヤードみたいに握るいわゆる“クローグリップ”でいくことに決め、アプローチは今年から契約を結んだコーチの米澤愛信さんが大きなヒントをくれた。「テイクバックが早くなっている」。すでに自分の生来のリズムであるような錯覚を起こしていた長年の悪癖。
基本に立ち返ることが出来た。「僕の命の恩人です」とは決して大げさではなく、予選通過もどうかという状況の中でV争いに加われば、なおさら感謝しきりでいよいよ最終日を迎える。
3日目の好スコアにも「まだ“卒業”はしていない」。パットのイップスは、「かかってから、もう10年以上になるから」。病巣の深い病の完治はそう簡単にはいかないが、ゴルフの病気に効く何よりの薬は、言うまでもなくあの二文字。
プロ17年目。自身9度目の最終日最終組も、過去8度は一度も60台で回ったことがなく、また平均ストロークは73と、そんな記録も、早く破ってしまいたい。
「明日は60台で回る。自分の持っている最善の方法で、やっていく。カッコつけずにね」。焦がれてやまない初Vに向けて。ゴルフ界の山ピーが、なりふり構わず頂点を狙っていく。