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日本オープンゴルフ選手権 2008
片山晋呉の強さの秘訣
確かに言うとおり、3度の2試合連続Vを達成している谷口に対し、片山は一度しかない。
勝つたびに「もうこれ以上、成長できないのではないか」と、自分を疑ってしまうという。
「自分で自分を追い込んでしまうタイプ」とも。
生活のすべてをゴルフにつぎ込んできた。
「体の小さな僕が、人より優れた部分はゴルフへの取り組み方だったり、試合に対するどん欲さだったり」。
日々、練習場で賑やかに繰り広げる創意・工夫もそうだ。
そして「良い」と思ったものを、信じてやり続ける持続力。
それは、パターを使った左利きでの素振りや独特なポーズのストレッチなど、パっと目を引くものから、ラウンド中の些細なしぐさにまで及ぶ。
スコアカードは左手でつける。
そればかりかカードを逆さにひっくり返して、小さなマス目に数字を書き込む。
「これって一番、普段使われていない脳を活性化させるんですよ」と、物知り顔で言う。
「それで何打違うのと言われても、違わないと思うんですけど、1年で1打か2打違う。1年で1打か2打違うということは、優勝争いで勝つってことなんですよ」と、とうとうと説いた。
そのほかにも左手で歯磨きしたり、「みんながやっていないようなところを常に探して自分を磨いている」という。
もうこれ以上出来ない、というところまで日々突き詰めているからこそ、勝つと逆に不安になるのだろう。そしてその不安がまた、次の勝利へと駆り立てるのだろう。
まだツアーの出場権もままならない24歳のとき「35歳で25勝」と、何の根拠もなしに日記に書いたと本人は言う。
この日の偉業達成も、まるで偶然の一致のようだがそうでない。
血のにじむような努力と鍛錬の積み重ねの末に達成した35歳と8ヶ月19日でのツアー通算25勝目は、史上3番目の若さだ。
最年少の31歳と6ヶ月29日で25勝目を達成した中嶋常幸が、5月の日本プロから足踏みを続ける片山に、顔を合わせるたびに見せつけてくるものがあった。
金色に輝く選手証。
マネークリップ型のバッジはシード選手がシルバーなのに対し、永久シード選手のそれはゴールドだ。
表彰式で、大会主催の財団法人日本ゴルフ協会の安西孝之・会長から栄光のJGAオープン杯を受け取ったあと、最後に時間を借りて、社団法人日本ゴルフツアー機構 会長の小泉直から選手証の贈呈を行った。
5月の日本プロで24勝目をあげたあと、すぐに発注されたバッジは早くに出来上がっていたが、なかなかその手に渡らなかった。
ツアーのスタッフにある日、袋に入った状態のままそっと見せられ「片山さん、賞味期限がありますよ」とジョークを言われて苦笑したものだがようやくこの日、実物を手に取って感無量だ。
しげしげと眺めながら、しみじみと言った。
「今回は初優勝と同じくらい大きな1勝。なかなか勝てなかったのはこの重みのせいだった。勝てなかった半年こそが、25勝の壁だったんだと」。
とうとう突き破ったら、また次なる野望が生まれた。
「目標は45勝」。
晋呉=シンゴ=45に引っかけた数だけの勝ち星まであと20勝。
「かなり大変だけど、達成出来たら本望ですね。これからまた1つ1つ積み重ねていく」。
ツアー1どん欲な男は、立ち止まることを知らない。
※当初、この記事の中に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。