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谷口徹が地元奈良県の児童養護施設を訪問(3月17日)

せっかく“完全制覇”の記念の年も、肝心の寄付のほうは、今年も思うがままにいかなかったことが、48歳には口惜しい。「最近は、優勝からも遠ざかりすぎて。“不景気”なんで」と自嘲の笑みで、今年もまた子どもたちに披露する自己紹介の挨拶がわりのDVDが2012年から更新されていないことも居心地悪い。

同年のブリヂストンオープンは、18番で劇的なチップインイーグルで、ライバル藤田を蹴散らして、内容的には申し分ないVシーンも当時は44歳が、喜びあまって芝生の上でピョンピョン跳ねた。「あのときは夢中であんなんしたけれど。あとから見直したら恥ずかしい」とそろそろ新しい勝ち星で、古いDVDも上書きしたい。

ベテランのライフワークも今年、ついに一巡した。谷口徹が出身の地元奈良県の6つの児童養護施設と、3つの母子支援施設に獲得賞金の一部を寄贈する社会貢献活動を始めたのは2006年。「お金や物だけを贈るのではなくて、子どもたちがプロのスポーツ選手に出会うという希有な機会もプレゼントしたい」と、その翌年のオフから順繰りに各施設を訪ね歩いて、10年目。2009年は不慮の怪我で流れているから、3月17日に訪れた法隆寺町の「いかるが園」をもって“全制覇”。「毎年1年1年、だんだん恒例行事みたいになっていき、数えてみたら9回やっていたという感じ」。地道な活動も毎年、子どもたちの前で前年の成果を発表することも、喜びのひとつだったが大事な節目の今年もまた良い報告も出来ないばかりか、昨年はここ10年のワーストタイ記録というのが悲しい。

園庭で、子どもたちとスナッグゴルフに興じる際にもつい愚痴が出る。「おじちゃんはパットの天才やねん。練習しなくても、去年もパットでは1位になってん」。子どもたちとの競争で、ハンディをあげるために目をつぶって打っても的を外さなかった。昨年は、せっかく谷原からその称号を奪い返すのにも成功したのに、賞金ランクは47位にとどまった。「パットで1位になったのに、あんな悪い年は初めてやった」と傷心の2015年。「おっちゃん、最近下手やねん」としょんぼりと、子どもたち相手に嘆き節では、過去2度の賞金王も形無しだ。

19個目で止まったままの勝ち星。「20勝も通過点、とずっと言ってきたけどなかなか通過も出来てない」。自分に業を煮やして「今年は結果にこだわってやろう」と、決めた。
あと2年で50歳も、「シニアには当分行かない。レギュラーで、やれると思えるうちは、やるつもり」と昨オフから一念発起の筋トレは、今年もスポーツアパレルの「アンダーアーマー」が運営する都内の「ドームアスリートハウス」に週1ペースで通い、今年からトレーニングと合わせてプレー後のケアもトータルして面倒みてもらうことにした。

その合間の恒例の宮崎合宿は、先週の今年3回目に誘った稲森佑貴。「あいつまだ若いのに。『トレーニングはボチボチです』って。俺は、ゲー吐くような思いで頑張ってんのに!」。21歳を相手に、まだまだ血気盛んに「道央にも、ヒロシにもまだ負けない」と弟子たちにもメラメラだ。

この日は子どもたちとの歓談の中で、「おじちゃんは何歳に見える?」と戯れの質問も、女の子の小さな声を聞き逃さない。「32歳くらいかな?」。「近いっ!!」とうそぶいた。一回り以上も若く見られて、がぜんテンションもアガりまくって「その辺のおっちゃんよりは、若いでしょ?」。ちょっぴりせり出したポッコリお腹も、今や正真正銘「腹筋やで!」と、子どもたちの前でも胸を張れるほど。起死回生を期して、昨年以上に充実しきったこのオフだ。

児童の一人はこの日、学校でお友達に「谷口選手が会いに来てくれる」と打ち明けたら、たいそう羨ましがられたそうだ。「“それ誰”って、言われへんかったん!?」なんて、本人はそんな照れ隠しも地元奈良が生んだヒーローを、誰が知らないでか!
ここしばらく結果には恵まれないが、生涯獲得賞金は15億6719万8405円。積み重ねてきた努力の結集で、今がある。
この日は学校でもらったばかりの“卒アル”を持ってきて、「ここにサインしてください」と頼みに来た子もいた。翌18日に卒業式を控えた6年生の子どもたちにも、良いはなむけの言葉になった。
「人生に無駄なことはひとつもない」と、心をこめて訴えた。
「勉強すること、遊ぶこと、食べること。どんなことも一生懸命取り組むこと。それがいつか、必ず役に立つ日が来る。これからつらいこと、悲しいこともあると思うがみんなも逃げないで、乗り超えて、立派な大人になっていけますように」。
いつか人生に迷ったときも、自分のこの言葉を思い出して、子どもたちがもう一度、前を向いて歩いていくきっかけとなりますように。

この社会貢献活動もひとまず今年一巡して、「うちの子より素直でよっぽどやりやすい」と、この日はスナッグゴルフの“ミニ講習会”ですっかり打ち解けた子どもたちにも、施設の方々にとっても気になるのは来年もまた、谷口が会いにきてくれるかどうか。「うう〜ん、どうしよう。来年からはどうするか。まだ全然決めてないねん」。

先日には、海外での心臓移植手術を希望する男児を支援する基金「こうちゃんを救う会」への振り込みを済ませたばかり。自身も二児の父として、これからも何らかの形で日本中の子どもたちに寄り添っていきたい気持ちは大ありだ。2008年には、シニアと女子と男子で争う日立3ツアーズ選手権のV賞金を、そっくり丸ごと愛する奈良の子どもたちに贈った。

「谷口プロはどんな場面でも努力を続けて来られて今がある。その成果を回りの人たちにも、惜しみなく分けられる。こんな素晴らしい方と実際に出会い、身近に触れ合い、生の声を聞かせて頂けることは、子どもたちにも一生の思い出です」と、このたびついにひとまず締めの訪問9カ所目となった「いかるが園」の中川佳之・施設長も感謝しきりだ。
地元で10年続けてきたこの貢献活動も、いったんひと区切りがついて「来年からはまた少し違った形で」とも考えていた谷口だがこうしてまた明るい笑顔に出会うと奈良の子どもたちとも離れがたいし、はてさて、消えることない貢献魂を、今後いかがしたものか。
  • 長年の活動の功績を称えて今年も地元奈良の共同募金会から表彰を受けて・・・

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