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日本ゴルフツアー選手権 Citibank Cup Shishido Hills 2011
山下和宏が単独首位に
かわりにスルリと躍り出たのはプロ14年目の37歳。この3日間ともただひとり、アンダーパーをマーク。また、3日間でボギー4つは、もっとも少ない。この難コースで安定したゴルフを展開している。2位と1打差は、最終日としては自身初の単独首位にもノリノリだ。
親指を立てて「イェーイ!」とニッコリ。「やっぱりトップは気持ちいい!」と、いつものように、爽やかに笑った。
しかしここ宍戸での優勝争いは、その表情ほどにはスマートにはいかない。15番のリーダーボードで自分がトップに立っていることを知ったが、「コースとの戦いが先で、緊張している余裕もなかった」と、溜息交じりに振り返る。
残り4ホールの難しさは思わず祈りを捧げて歩きたくなるほど。ましてこの日は強い風が吹き、高速グリーンは刻々と難易度を増していく。
同じ組で回った小泉洋人はこのオフに、和歌山で一緒にラウンド合宿をした練習仲間だ。
小泉もまたキムと同様に、12番でOBを打って、一度は沈んだ。
それでもしぶとく這い上がってきた。ひとつ下の後輩の健闘に「小泉もやるな、このやろ〜」と、いつも礼儀正しい選手には珍しく、乱暴なセリフを内心つぶやき自らも、戦いの炎を燃やし続けた。
最難関の17番で、ボギーを打ったが首位を死守した。「ほかは良いパーが獲れたし、17番以外はよく頑張った」と、自分を褒めずにいられない。
「明日は最後まで食らいついていけるか、こっぱ微塵にやられるか。分からない」。最終日の1番ティは、「手がぶるぶるしてティにボールが乗らないかもしれない」。早くもそんな不安が頭をもたげる。
しかしこの難コースで1打でもリードがあれば、心の支えになる。
今季のジャパンゴルフツアーは先週まで6試合で30代の優勝が続いているが、中でも3週前の日本プロ。やはり、5年シードの“メジャー戦”で39歳にして、ツアー初優勝を掴んだ河井博大(ひろお)には「胸に染みるものがあった」。
コースの難しさとともに、若手の強豪の追撃を振り切った。QTやチャレンジを渡り歩いた長い下積み生活も、ようやく報われた。
同じような境遇にあった山下にも大きな勇気を与えた。
その河井から、「山下も早く優勝しろよ」と言われて、奮い立った。
40歳を目前に控え、年齢的にも巡り来たこのビッグチャンスを逃したら、「もう一生優勝はないかもしれない」と、そこまで山下は覚悟して臨む。
「僕みたいな選手はいつまでこの位置にいられるか」。悠長に構えていられるほどには、残された時間はそう長くはない。
「あいつ勝てそうだったけど、残念だったねと言われるのか。一生悔いを残して終わるのか」。
そう思えばこそ、「明日は燃え尽きるまでやらないといけない」。
爽やかな笑顔の裏に、激しい思いを秘めて残り1日を戦う。