Tournament article
ANAオープン 2009
山下和宏は「僕には何かが足りない」
自身3度目の最終日最終組は、谷口徹と中嶋常幸との優勝争い。
2人合わせて通算63勝、賞金王は計6回の選手に挟まれての戦いに圧倒された。
中嶋の戦いぶりには「勝負しているという感じが本当にかっこいい」と、心底しびれた。
「執念みたいなものをひしひしと感じた。僕みたいに、バーディが取れればいいと思っているだけじゃない。僕はまだまだ甘い、と」。
そして谷口とは、「昨日の夜一緒だったんですけど…」。
そう答えたきり、「う〜ん」とうなってしばらく言葉につまってしまった。
目には再びうっすらと、新たな涙の膜が張っていた。
どんな食事の席だったかは想像になるが、きっと同じ最終組で繰り広げることになった翌日の優勝争いについて、冗談交じりに牽制しあい、いつものように軽口の応酬が始まり…。それはそれで、楽しい食卓だったのではないだろうか。
しかし、いざ最終日を迎えると谷口はすっかり戦う男の顔に変わっていた。
無愛想なくらいにひたすら前だけを見て、勝利だけを見つめる表情には、鬼気迫るものがあった。
おそらく、そんな谷口を間近に見るのは山下にもこれが初めてだっただろう。
そしておそらく、初めてほんとうの真剣勝負を味わった。
「僕にはちょっと、調子に乗っている部分があったのかもしれない」と、つぶやいた。
中嶋と並んで2位タイに、「最終的にこの位置で終われたけれど。ここからが、僕には何か足りない。まだまだ頑張らないといけない」。
そして改めて思った。
「こうやって優勝争いがやれることの有り難みみたいなものを、今になって感じます」。
2人のトッププロの強さの秘密を垣間見ることが出来た興奮と、それにひきかえ不甲斐ない自分への歯がゆさ、そして、プロ12年目にしてそんな想いが味わえるようになったことへの感慨と……。
それらみんながない交ぜになって、ついこみ上げてきたものがあったのではないか。
そしてそれらはすべて、真の強さを身につけていく課程で誰もが通る道。この経験を、生かせる日がきっと来る。